最悪、訴訟や競売に至るリスクも…
書籍『あぶない!!共有名義不動産』第二章で取り上げた【事例14】収益ビルの持分の売却を法人から求められた例が示しているように、収益不動産の持分が共有者以外の第三者によって競落されるケースは多々あります。
「競落人は共有持分を落札しても、物件を単独で自由に使うことができないので、落札する意味がないのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
実は、収益物件の持分の競落人は、いわゆる不動産ブローカーが中心となっています。落札後に他の共有者に対して買い取りを要求したり、あるいは完全な所有権を得ようと持分の売却を促す交渉を行うことを予定して、落札を行っているのです。
こうした落札後の交渉等が思う通りにいかなかった場合、ブローカーは共有物分割請求訴訟を提起する可能性があります。
訴訟になれば、ビル等の家屋は現物分割が困難であるため、分割請求の対象となった物件は最終的に競売にかけられるかもしれません。
このように不動産ブローカーに持分を取得されると、共有している不動産が競売にかけられ、安い価格で手放すことを強いられるおそれがあるので注意が必要です。
価格をめぐるトラブルには不動産鑑定士の評価が有効
なお、【事例14】収益ビルの持分の売却を法人から求められた例では、持分を落札したO社がNさんとその親族に対して「持分を買い取りたい」と提示してきた買い取り金額の妥当性が問題になりました。
通常の不動産と違い、共有名義不動産の持分に関しては一般的な取引市場が存在しておらず価格が不透明になりがちです。そのため、持分の売却時には価格をめぐる争いが発生する場合が少なくありません。
そのようなトラブルを避けるためには、不動産鑑定士に依頼して売却対象となっている持分の適正な評価額を算出してもらうことが望ましいといえます。
このケースでも、不動産鑑定士に「価格の妥当性」を検証してもらった結果、O社の提示金額が、持分の価値から考えると非常に低かったことが明らかになりました。そこで、Nさんは最終的に、O社ではなく妥当な金額を提示してきた投資家に対して売却することを決めました。
また、第二章で紹介した【事例19】借地権を共有する法人から持分を買い取りたいと言われた例では、Uさんは、適正価格なら売却を求めてきたV社に対して持分を売ってもよいと考えていました。
そこで、不動産鑑定士に依頼して持分の適正な価格を算出してもらったところ、V社の提示してきた買い値を上回る評価額となりました。そこで、改めてV社と交渉を行い、不動産鑑定士による評価額に沿った形で購入することを求めて、受け入れさせました。
いずれのケースも不動産鑑定士の評価を経ないままでは、持分を不当に安い価格で売却していたおそれがあります。
そうした不利益を被らないようにするためにも、共有持分を処分する際には、事前に不動産鑑定士の評価を得ておくことが非常に重要になるのです。