所有者の1人が共有名義の解消を試みた場合は・・・
ここまで共有状態を解消する7つの方法について順番に解説してきました。ここで、それらの概要についてまとめておきましょう。
(1)全部売却
共有名義不動産を共有者全員で売却する。
(2)一部売却
自己の持分を共有者以外の第三者に売却する。
(3)持分移転
自己の持分を第三者ではなく他の共有者に売却する。
(4)持分買い取り
他の共有者の持分を買い取って、不動産を単独で所有する。
(5)持分放棄
自己の持分を放棄する。
(6)土地の分筆
1つの土地(一筆の土地)を登記簿上2つ以上の土地に分ける。
(7)共有物分割請求訴訟
共有物の分割を訴訟の形で行う。
たとえば、甲土地について、X、Y、Zが3分の1ずつ持分を持っている状態で、Xが共有関係を解消したいと考えて、(1)から(7)のいずれかの手段を選んだときには、それぞれ以下のようなアクションを起こすことになります。
(1)全部売却
Xが、Y、Zに対して甲土地の売却を提案し、全員の合意が得られたら不動産会社を通じて買い手を探す。
(2)一部売却
Xが、自己の持分について、Y、Z以外の買い手を探す(ただし、買取業者に安値で買い叩かれないよう注意しましょう)。
(3)持分移転
Xが、Y、Zに対して自己の持分の買い取りを提案する。
(4)持分買い取り
Xが、Y、Zに対してそれぞれの持分の購入を申し入れる。
(5)持分放棄
Xが自己の持分を放棄する意思を示す。
(6)土地の分筆
Xが、Y、Zに土地の現物分割を提案し、同意を得たうえで分筆登記を行う。
(7)共有物分割請求訴訟
Xが裁判所に共有物分割請求訴訟を提起する。
共有している不動産が建物の場合にも、基本的には同様のプロセスを経て共有状態が解消されることになるでしょう(なお、(6)土地の分筆は共有している不動産が建物の場合には選択できません)。
各共有者により異なる「不動産への思い」
以上の7つの選択肢のうち、(1)全部売却は持分だけを売る場合に比べてより多くの対価を得られる点で大きなメリットがあるといえます。
しかし、「早く売りたい」「まだ売りたくない」「いつかは自分が住みたい」など、共有名義不動産に対する各共有者の希望や思いはバラバラであることが多く、いざ不動産を売却しようとするときにみなの意思が必ずしも一致しないのが現実です。共有者のうち1人でも売却に反対していれば売却が不可能になります。その場合には、(2)~(7)の手段の中から解決の方法を探ることになります。
まず、(3)持分移転は他の共有者が自分の持分を適正価格で買い取ってくれれば問題ないのですが、買い取り価格に関して折り合うのは難しいのが現実です。たとえば、対象物件に住んでいる長男に次男が持分売却を持ちかけた場合には、次のようなやりとりが行われることが珍しくありません。
次男「適正価格で俺の持分を買ってくれ」
長男「弟なんだからタダでよこせ、それがダメなら安く売れ」
このように、(3)持分移転の交渉はスムーズに運ばないことが多いのです。同様の難しさは、(4)持分買い取りにも存在します。売却を持ちかけられた側が提示された価格に納得できず交渉が成立しないというのはよくあることです。
そして、(5)持分放棄には「無償で持分を手放さなければならない」というデメリットがありますし、(6)土地の分筆は建物のトラブルの場合には使えません。また、(7)共有物分割請求訴訟は費用や時間がかかることを考えると、結局、残った(2)一部売却が最も適切な手段となることが少なくありません。
実際、下記図表にあげた持分売却理由ランキングが示すように、「とにかく共有関係を解消したい」「自分の代で(トラブルを)終わらせたい」「(持分を売って)現金化したい」という理由から、この方法を選択して持分を売却している人が数多くいるのです。
[図表]持分売却理由ランキング