前回に引き続き、「賃貸借契約」で確認すべきポイントを見ていきましょう。今回は、無催告解除特約について取り上げます。※本連載は、弁護士法人サン総合法律事務所代表・パートナーの清水俊順弁護士、パートナーの高村至弁護士による編書、『借地借家事件処理マニュアル』(新日本法規)より一部を抜粋し、賃貸借契約の解除・解約の進め方を、事例を交えて分かりやすく説明します。

催告なしに契約解除が可能な「無催告解除特約」

前回に引き続き、「賃貸借契約」で確認すべきポイントを見ていきます。

 

(4)無催告解除特約の有無を確認する

 

無催告解除特約とは、例えば「2か月分の賃料の滞納があれば催告をすることなく契約を解除することができる」という定めのように、相当期間を定めた催告を行うことなく解除できることを定めた特約です。

 

判例は、旧借地法11条(現借地借家法9条)、旧借家法6条(現借地借家法30条)と無催告解除特約の関係について、同法条は賃借人の賃料不払の行為までも保護する趣旨ではないとし、無催告解除特約を有効と考えています(最判昭40・7・2判時420・30(借地)、最判昭37・4・5判タ130・58(借家))。

1回のみの滞納では契約解除できない、とされた事案も

では、無催告解除特約が賃貸借契約書に定められているからといって、短期間の滞納でも無催告解除を認める特約は有効なのでしょうか。

 

判例において「1か月の賃料の遅滞があれば催告をせずに契約を解除することができる」という1回のみの滞納を理由とする無催告解除特約の有効性が争われた事案があります。

 

判例は当該無催告解除特約の有効性について、「賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定である」として、無催告解除特約を限定的に解釈してその有効性を判断しました。

 

本事案では5か月の滞納があり、他に特段の事情もないため、無催告で解除権を行使することも不合理とはいえないとして、無催告解除特約に基づく解除が認められています(最判昭43・11・21判時542・48)。

 

実務的には、滞納期間を1か月とする無催告解除特約があったとしても、1か月の滞納があるだけでは、催告なしで解除することは難しいと考えられています。1か月の滞納を理由とする無催告解除特約があったとしても、特約自体が無効となるものではありません。

 

無催告解除特約に基づき無催告解除を行う場合には、問題となる事案において催告をしなくても不合理とは認められない事情があるか、具体的には、滞納回数、滞納額、その他の事情を総合的に考慮した上で、無催告解除の可否を検討することになります(最判昭50・11・6金法782・27参照)。

借地借家事件処理マニュアル

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清水 俊順,高村 至

新日本法規

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