合意解約による終了には、当事者間の合意が必要
(1) 当事者間での合意の存在を確認する
建物所有目的の借地権(普通借地権の場合)の最短存続期間は30年です(借地借家3)。賃貸人からの期間内解約は原則としてできません。また、期間満了時にも賃借人からの更新請求や使用継続に対して異議を述べるには正当事由が必要です(定期借地権の場合を除きます。)(借地借家6)。
借家権の場合も、期間の定めがある場合に賃貸人側からの期間内解約は原則としてできず、また、期間満了時の更新拒絶に正当事由が必要な点も借地権と同じです(定期借家の場合を除きます。)(借地借家28)。このように、賃貸人側からの解約には、非常に厳しい制限があります。
これに対して、当事者の合意によって賃貸借契約を解約することは、いつでも自由にできます。その意味では、合意解約は実務において非常に重要な意義を有しています。ただし、次に述べるように、転借人の有無や、借地借家法9条等に反しないかの確認は必要です。
合意解約による終了のためには、当事者間で真の合意が存在する必要があります。とりわけ、一般的には賃貸借契約の合意解約によって借地借家法による保護を自ら放棄するという不利益を受ける賃借人の側が、本当に合意解約の意思を有しているのかということは、事実に即して確認しておく必要があります。
また、合意の内容として、いつ契約を終了させるのか、賃料、敷金の精算をどうするのか、借地契約であれば建物をどうするのか(賃貸人が買い取るのか、建物を取り壊すのか、取り壊すとして取壊費用は誰が負担するのか)、借家契約であれば原状回復義務の範囲及びその費用負担についてどうするのか、といったことも一緒に定めておく必要があります。
金銭の精算、借地上の建物の処理、原状回復義務の範囲等についての処理などが決まっていないと、単に契約を終了させる合意があったといっても、それで真の合意があったといえるのか、条件付きの合意があったにすぎないのではないかと捉えられるおそれがあるからです。この点は後掲(3)も参照してください。
なお、合意解約の場合、建物の買取りを合意しない限り、建物買取請求権は放棄されたと解されます(最判昭29・6・11判タ41・31)。
合意が「借地借家法9条等」に反しないかを確認
(2) 転借人の有無を確認する
賃借人が転貸人として、転借人に対して当該物件を転貸している場合で、転貸につき賃貸人の承諾を得ているときなどは、賃貸人と転貸人の間で賃貸借契約が合意解約されたときに転借人が明渡しに応じなければならないとすると、転借人が予期せぬ不利益を一方的に被ることになります。したがって、このような場合は、転借権は消滅しないと解されます(民398・538参照)。
したがって、転借人がいる場合は、解約について転借人からも同意を得る必要があります。転借人が同意していないにもかかわらず、賃貸人・転貸人間で親契約を合意解約して、転借人に明渡しを求めることは原則としてできません(最判昭37・2・1裁判集民58・441、最判昭62・3・24判時1258・61)。なお、転借人の同意がない場合に親契約が合意解約されたときは、賃貸人と転借人は直接の法律関係に立つことになると考えられます。
(3) 合意が借地借家法9条等に反しないか確認する
最高裁昭和44年5月20日判決(判時559・42)は、借地契約の期限付合意解約は、合意に際し賃借人が真実解約の意思を有していると認めるに足りる合理的客観的理由があり、かつ、他に上記合意を不当とする事情の認められない限り、借地法11条(現借地借家法9条)に該当しない、と述べています。
借家契約の期限付合意解約についても、最高裁昭和31年10月9日判決(判タ65・81)が判決理由において同様の判断を示しており、最高裁は安易に期限付合意解約が認定されることを抑制的に考えています。
したがって、合意解約に当たっては、上記判決を踏まえて、賃借人との交渉プロセスを安易に捉えず、説明を尽くし賃借人の理解を得るなど、慎重に合意を得る必要があります。
また、前掲(1)で説明したとおり、金銭の精算、借地上の建物の処理、原状回復義務の範囲等についての処理も合意内容に盛り込んで、後日合意があったこと自体に疑義が生じないようにしておく必要があります。
さらに、賃借人に一方的に不利益な内容ばかりを合意に盛り込むと、賃借人が合意内容をきちんと理解できていなかったのではないかとの疑念が生じかねませんので、注意が必要です。