今回は、賃貸借契約の「契約解除の可否」を検討する際のポイントを見ていきます。※本連載は、弁護士法人サン総合法律事務所代表・パートナーの清水俊順弁護士、パートナーの高村至弁護士による編書、『借地借家事件処理マニュアル』(新日本法規)より一部を抜粋し、賃貸借契約の解除・解約の進め方を、事例を交えて分かりやすく説明します。

解除条項で定められている滞納期間を超えているか?

(1)契約書記載の解除原因に該当するか確認する

 

賃貸借契約書の解除条項で定められている滞納期間を超える滞納が発生しているかを確認します。

 

賃貸借契約書の解除条項の滞納期間を超える滞納が発生していない場合には、他に信頼関係を破壊する事情がない限り、原則として、賃料滞納を理由とする賃貸借契約の解除はできません。

 

賃貸借契約書の解除条項の滞納期間を超える滞納が発生している場合で、契約書の解除条項が合理的に考えて信頼関係を破壊する程度の滞納期間を定めている場合には、信頼関係が破壊されていると考えることができるため賃貸借契約を解除することができるでしょう。しかし、解除条項の滞納期間を超える滞納が発生していたとしても、滞納状況、滞納額、滞納に至った経緯などを総合的に考慮して、信頼関係が破壊されていないと考えられる事情がある場合には、次に述べるとおり、賃貸借契約を解除することはできません。

賃貸人の態度等が原因で信頼関係が破壊されているか?

(2)信頼関係破壊の有無を検討する

 

賃貸借契約書の解除条項で定められた滞納期間を超える滞納が発生している場合には、賃貸人は、民法の原則に従い、相当期間を定めて催告をした上で、契約を解除することになります。

 

しかし、相当期間を定めて催告を行って解除の意思表示をした場合でも、滞納に至った経緯、滞納額、滞納期間、その他賃借人の態度・状況、賃料を受領する賃貸人の態度などから、賃貸人及び賃借人間の信頼関係を破壊していないといえる事情がある場合には、賃貸借契約を解除することはできません(最判昭39・7・28判時382・23、東京高判昭61・1・29判時1183・88、名古屋高判昭53・2・23判時903・57)。

 

なお、滞納期間が長期にわたれば一般的には信頼関係が破壊されているといえます。

 

また、賃貸借契約書に解除原因となる滞納期間が定められていない場合であっても、信頼関係を破壊する程度の滞納状況が続いていれば契約を解除することができます。

 

ただ、実務的には、1日だけの賃料の支払の遅れや、1回の滞納というような軽微な賃料滞納の債務不履行のみの場合には、信頼関係が破壊されているとはいえないため、通常、契約の解除は認められません。

 

また改正民法(案)によっても、軽微な賃料滞納は、その債務の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるといえるため、契約の解除は認められないと考えるべきでしょう(改正民(案)541ただし書)。

 

<ケーススタディ>

 

Q:どれくらいの期間の滞納があれば信頼関係が破壊されていると考えることができるのでしょうか。

 

A:信頼関係が破壊されているか否かは、滞納期間から一律に決まるものではなく、滞納状況、賃貸借契約期間、賃借人の態度等様々な事情を総合考慮して判断することになるので、事案に応じた判断が必要となります。

 

判例では、4か月の賃料滞納があっても、解除通知当時の借地権価格や賃借人の支払状況等を総合考慮して解除権の行使を認めなかった事例(東京高判平8・11・26判時1592・71)や、2か月の賃料滞納があっても、賃借人において遅延状態の解消のため一定の努力がされていること、賃借人の損害等を考慮し、信頼関係が破壊されていないとして催告解除が認められないとした事例(東京地判平24・10・3(平24(ワ)10805))があります。

 

また、解除の意思表示時点では賃料滞納が1か月未満にまで解消されていた事案で、信頼関係が破壊されていないとして無催告解除特約に基づく解除権の行使を否定した下級審判決もあります(東京地判平19・6・27(平18(ワ)11188))。

 

4か月の賃料滞納による解除権行使を否定する下級審判決がある一方、4か月の賃料滞納があった事案で、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があると認めることは到底できず、本件解除が権利の濫用に該当するとはいえないとして、解除権の行使を認めた事例もあります(東京地判平17・8・30(平17(ワ)5034))。

 

上記下級審判決からも分かるように、信頼関係破壊の有無は、個別具体的に検討していかなければなりません。

借地借家事件処理マニュアル

借地借家事件処理マニュアル

清水 俊順,高村 至

新日本法規

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