まずは現物分割が検討されるが・・・
共有物分割請求訴訟の手段による場合、各共有者の持分の取り扱いは判決によって決められることになります。では、共有物分割請求訴訟では、どのような内容の判決が出されることになるのでしょうか。
この点に関して、裁判所は以下のような流れで分割の方法を検討することが求められています。
①現物分割ができないだろうか。
②現物分割は難しそうだ。
③では、代償分割か競売のどちらかを選択しよう。
このプロセスに示されているように、「共有物の現物を分割することができないとき」(民法258条2項)には、現物分割の判決は行われないことになります。
ちなみに「共有物の現物を分割することができないとき」とは、「現物分割が物理的に不可能な場合のみを指称するのではなく、社会通念上適正な現物分割が著るしく困難な場合をも包含するものと解すべき」(最判昭46年6月18日)とされています。
その具体的な判断はケースバイケースであり、一見、現物分割が可能に思えるような場合でも、裁判所が消極的な姿勢を見せることが多々あります。
なお、判例上は、以下のような分割の実施方法も認められています。
①共有者が3人以上のときは、共有者の一部につき共有関係を存続させることも可能。つまり、共有者全員の共有関係を解消する必要はない。
②共有者間に複数の共有名義不動産があるときは、各不動産を個別に分割の対象とする方法だけでなく、すべての不動産を一括して分割することも可能
共有物分割請求訴訟にある様々なリスク
共有物分割請求訴訟で現物分割が認められない場合には、代償分割の道が探られることになりますが、これは実質的には前述した(3)持分移転かもしくは(4)持分買い取りが行われたのと同じ結果をもたらすことになります。
そして、代償分割が難しいような場合には、最終的に、裁判所の判断により、訴訟の対象となった共有名義不動産が競売にかけられることになります。
競売で不動産が落札された場合、落札価格は市場価格よりもはるかに低くなるのが一般的です。つまり、不動産会社の仲介を通じて共有名義不動産を市場で売却した場合に比べて、共有者全員が得られる売却代金が少なくなってしまうわけです。
さらに、落札された不動産を賃貸に出していた場合には、その借主から損害賠償を受ける危険性もあります。
たとえば、下記図表に示したように、土地はX、Yの共有、建物は1階がX、2階がYの区分所有となっており、1階を店舗用に貸し出していたような場合に(借地権に対抗要件は備わっていません)、YがXに対して共有物分割請求訴訟を起こし、土地が競売にかけられることになったとします。
[図表]土地と建物の複雑な共有
もしX、Y以外の第三者によって落札された場合には、土地と建物の所有者が異なることになり、このケースでは借地権に対抗要件が存在しないことから、建物は敷地利用権を失うことになります。つまり、土地を落札した第三者は、建物を除去して土地を明け渡すよう求めることが可能なのです。
万が一、建物が取り壊されるようなことになれば、Xは1階のテナントに対して賃貸借契約を履行することができなくなります。そうなれば、テナントから契約の不履行によって被った損害の賠償を請求されるおそれがあります。
このように、共有物分割請求訴訟によって共有状態を解消する手法には、「売却代金が少なくなる」「損害賠償を請求されるリスクがある」などのデメリットがあります。また、当事者間の話し合いで解決する場合に比べて、費用や時間がかかることも避けられません。