前回は、遺言書作成の基本的なポイントについて解説しました。今回はさらに踏み込んで、遺言書作成の準備段階で実施しておきたい「家族会議」について見ていきます。

家族間で「過去・現在・未来」について話し合う

遺言書の目的は相続人同士のトラブルを防ぐことが第一ではあるものの、相続人のその後の人生を考えるなら、それぞれの希望に近い分割方法を提示したほうが、皆が満足する相続に近づけることができます。その点を踏まえると、私は遺言書を書くこと、また遺言書の内容を家族に秘密にするのではなく、オープンにすることがあってもよいと思っています。

 

しかし、現在は家族会議のような、家族間での話し合いを行っている家庭が少なくなっているでしょうから、実際にどのようなことを話し、どのようなことを聞けばよいか、ここで順序とともにお伝えしておきます。

 

①自分の歴史を話す(過去)

資産の明細を公開する前に、自分がどのような人生を歩んできたか、どのように資産を築いてきたか、また先祖からどのように資産を受け継いできたか、資産についてどのように思っているかを、あらためて子どもに伝えます。

 

子ども側からすると何度も聞いている話かもしれず、いまさらと思う部分もあるかもしれません。しかしあらためて子細に話すことで、親が当たり前だと思っていたこと、逆に子どもが思い違いをしていたことなど、細かな発見が相互に出てくるものです。

 

今に至るまでの過去のプロセスがわかれば、相続人にも引き継ぐ責任感や感謝の気持ちが生まれてきます。

 

②相続人の現在の状況を聞く(現在)

次に相続人である子どもたちの家庭の状況を聞きます。最近は親と同居していない場合も多く、自分の子どもとはいえ表面からでは家庭の内情はわからないことが多々あります。

 

特に聞いておくべきは経済事情で、仕事の状態や住宅ローンの残額、孫の進学状況などは押さえてください。相続人として、財産を多くもらいたいというのは経済事情に起因するところが多いでしょうから、ここをケアすることでもめる危険性は減り、相続人も喜んでくれるはずです。

 

また、相続人同士がお互いの経済事情を共有できれば、実際に遺言書を見た時に、不満が噴出することを多少なりとも予防できますし、最終的な遺産分割の理由について、他の子どもにわかってもらうための第一段階ともいえます。いわば、根回しのようなものだと考えてください。ただし、家計のことはデリケートなことでもありますので、皆の前では話せないという人もいるかと思います。そういう場合は、後に1対1で話をする機会を持つといいでしょう。

 

中には、話すのを億劫がったり、恥ずかしがったりする相続人も出てくるとは思いますが、家計が大変な子どもを援助してやりたい、世話になった子どもに財産を多く分与したいという親心が前提にあることがわかれば、きっと少しずつ話してくれるはずです。

 

③将来について話し合う(未来)

相続発生後、どのように暮らすのかを話し合います。具体的には「どこに住むか」「誰と住むか」「生活資金はどうするか」です。これは、遺産分割を決める上で骨子となる、最も重要な部分です。この話を進めていく中で、実際に講じるべき節税対策や納税資金対策が見えてきます。

 

すぐには結論が出ないとは思いますが、少なくとも現時点での状況を踏まえた上で、親と子どものお互いの考えを確認するだけでも大きな意味があります。焦らずじっくりと進めるようにします。

税理士を同席させれば主催者の真剣さも伝わる

以上のように、過去・現在・将来(未来)に対する相互認識を家族で強めておけば、相続が起きた時も分割はスムーズに進んでいきます。

 

ここでは私が考える家族会議について示しましたが、もともとよく行っているという家庭であれば、いつも通りのやり方でやっていただいて構いません。また、家族会議をやるかどうかの考え方も人それぞれでよいと思います。財産はあくまで親である被相続人のものです。しかし、遺言書を書く準備段階として、多くの時間と回数をかけて、相続人とコミュニケーションを取ることは、ムダではありません。

 

子どもが遠い場所で暮らしている場合や子どもが多い場合などは、わざわざ家族会議のために呼び寄せることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。そういった時は、税理士などの専門家が同席しての家族会議を検討してみます。

 

同席する第三者が税理士ということであれば、相続人も親が真剣であり、また本格的な場だと考えてくれるはずです。遠くにいる相続人も「それなら・・・」と納得してくれるかもしれません。せっかく専門家を呼ぶのなら、そこでの家族会議では、現状での相続税の試算額や財産の棚卸の話ができればなおよいでしょう。そうすれば、さらに有意義な相続の話し合いの場となります。

 

ちなみに、家族とはいえ真剣な会議の場なので、議長は相続を控える親自身が務めることが望ましいといえます。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続財産を3代先まで残す方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産を3代先まで残す方法

相続財産を3代先まで残す方法

廣田 龍介

幻冬舎メディアコンサルティング

高齢化による老々相続、各々の権利主張、そして重い税負担…。 現代の相続には様々な問題が横たわり、その中で、骨肉の争いで泥沼にハマっていく一族もあれば、全員で一致団結して知恵を出し合い、先祖代々の資産を守っていく…

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