今回は、世界各地で進展する地域的経済統合について見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

参加国を限定することで合意の取り付けが容易に

第二次世界大戦後、世界の貿易は自由貿易を目指して突き進んできました。GATTの下でラウンド交渉が行なわれ、WTOの発足によって貿易の自由化はいっそう進みました。しかし、WTOの参加国が増加すると、複雑に対立する各国の利害を調整するのは容易ではなく、なかなか交渉がまとまりません。決定方式が全加盟国一致方式であるため、1カ国でも反対すれば何事も決まらないからです。また、合意できる部分はすでに合意され、調整が難しい分野が多く残っていることも、合意を困難にしている一因といえます。

 

[図表1]GATT・WTO参加国数

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

 

そうした状況を打開しようとして登場してきたのが、地域的経済統合でした。これは参加国を限定し、限られた地域での貿易の自由化を進めようとするものです。この方式だと参加国が少ない分、合意を取り付けることが容易になります。

 

本来、地域的経済統合は「無差別」「多角主義」をうたうGATTの原則には違反します。しかし、ドーハ・ラウンド(2001年〜)が難航していたこともあり、地域的経済統合は一定の条件下でWTOによって認められるようになり、急速に広がっています。現在ではEU(欧州連合)をはじめ、NAFTA(北米自由貿易協定)、AFTA(ASEAN自由貿易地域)など、さまざまな地域的経済統合が成立しています。

最終的に目指すのは「関税ゼロ」の世界!?

こうした地域的経済統合には、1930年代のブロック化につながる危険性はないのかという懸念があります。その点、地域的経済統合は戦前のブロック化とはまったく異なるとされています。

 

すなわち、戦前のブロック化は他国からの輸入を排除することを目的としていましたが、現在進められている地域的経済統合は、世界的規模での関税撤廃のための一つのステップだと考えられているのです。つまり、世界各地に関税ゼロの地域をいくつもつくり、ゆくゆくはこれらを統合すれば、最終的に関税ゼロの世界ができるはずだというわけです。

 

[図表2]世界のおもな地域的経済統合

 

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

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南 英世

ベレ出版

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