今回は、「円高」のメリット・デメリットを見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

円高で苦境に立たされるのは「輸出産業」

前回の続きです。

 

③産業の空洞化が起きる

円高になると輸出産業が苦境に立たされます。その一方で、円の価値が強くなるので、海外で土地を安く購入したり、工場を安く建設したりすることが可能になります。そこで、円高になると、現地での生産・販売を行なうために、日本企業の海外進出が盛んになります。そして日本国内では工場が建設されなくなるので、いわゆる産業の空洞化が起きてしまいます。

 

④輸入品は安くなる

1ドルの商品を輸入するのに、もし為替レートが1ドル = 200円ならば、200円が必要です。しかし、もし円高になって1ドル = 100円になれば、1ドルの商品は100円で購入できます。このように、円高になると輸入品価格は安くなります。よくデパートなどで「円高還元セール」をやっていますが、これができるのは円高によって安く仕入れることができるようになったからです。一般に、輸入品価格が値下がりすれば、競合する日本製品の価格も下がります。したがって、円高になると日本全体の物価水準が下落し、デフレになります。

 

⑤外国人労働者は有利になる

時給800円で働く外国人がいるとします。1ドル = 200円とすると、これは4ドルです。もし、円高になって1ドル = 100円になったとすると、8ドルになります。したがって、自分の国に送金することを考えると、円高になるほど外国人労働者は有利になります。

 

⑥外貨預金は損をする

いま、200万円を外貨預金にするとします。1ドル = 200円なら、外貨預金は1万ドルになります。もし、円高になって1ドル = 100円になると、1万ドルは100万円にしかなりません。したがって、円高になると外貨預金をしている人は損をします。

 

以上、円高( = 円の価値が高くなること)のメリット・デメリットをまとめると図表のようになります。

 

[図表]円高のメリット・デメリット

企業の海外進出が進み、円高の影響はそれほどないが…

日本では円高になると輸出産業が打撃を受けるため、円高を歓迎しない雰囲気があります。円高不況という言葉の存在がそのことを物語っています。しかし、為替レートは、円の対外的価値をあらわします。

 

だから、円の価値が高い( = 円高)というのは基本的にはいいことのはずです。財布のなかにあるお金の価値が高いことは悪いはずがありません。事実、自国の為替レートが高くなってつぶれた国はありません。反対に、経済が崩壊した国の為替レートは見るも無残に暴落するのが普通です。

 

最近は企業の海外進出が進み、円高になっても企業はそれほど影響を受けなくなってきています。むしろ、円安になり原材料の輸入価格が上がったために悲鳴を上げている企業が少なくありません。円高と円安のどちらがいいかは一概にはいえません。円高も円安も一長一短です。ただ、急激な為替レートの変動は経済的混乱をもたらすので好ましくないといえます。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

経済学の理論や数字を聞いても、それが何を意味するのか、そもそも何のための理論なのかがよくわからないという経験はありませんか? 本書は理論や数字の意味をしっかり理解できるよう、実際の経済状況や経済政策と結びつけ…

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