いずれも「外貨の売買で差益を狙う」金融商品
前回までの説明を読んで、「何だ、為替レートって簡単じゃないか。これでひと儲けしてやろうか」と思われた方がいるかもしれません。実際、1998年に外為法が改正されたあと、外貨預金や外国為替証拠金取引(FX)が日本の個人にも認められるようになり、人気を集めています。外貨預金もFX も、外貨の売買により差益を狙う金融商品という点では同じですが、外貨預金がおもに高い預金利息を長期的視点から狙うのに対して、FXはレバレッジ(てこ)をかけて短期的取引による為替差益を狙います。
しかし、外国為替市場の動きを読むことは、世界で一番難しい知的ゲームといえるかもしれません。前回の(1)から(4)の説明では、単純に一つひとつのことを取り上げて「こういう場合は円高になる」「こういう場合は円安になる」と説明しましたが、現実にはこれらのことが同時に起きます。
たとえば、高金利国の金融商品に投資したとします。しかし、金利が高い国はインフレであるのが一般的です。ということは、せっかく得られた高金利も為替レートの下落で吹っ飛ぶかもしれません。また、金利が高くなると景気が悪くなり、その結果として為替レートが下落し損をしてしまうかもしれません。
つまり、高金利国の金融商品に投資をしたからといって、必ずしも儲かるとは限らないのです。
そのうえ、ヘッジファンドなどの投機筋が市場をかく乱したり、戦争やテロによって突然政情が不安になったりすることもあり得ます。外貨預金やFX、あるいは外貨を組み込んだ投資信託の売買には、常にそうしたリスクが潜んでいることを知っておく必要があります。
長期的な為替レートに影響する「購買力平価説」とは?
ところで、為替レートは短期的には上げたり下げたりしますが、もう少し長いスパンで見ると、ある程度のトレンド(方向性)を持っているのがわかります。こうしたトレンド、すなわち長期的為替レートを最も合理的に説明する理論として購買力平価説があります。これは、「通貨の価値は購買力によって決定される」という通貨の本質を根拠にした考え方です。
たとえば、日本とアメリカでまったく同じ大きさ・同じ質のハンバーガーが売られていると仮定します。ハンバーガー1個が日本で200円、アメリカで2ドルなら、長期的な為替レートは1ドル = 100円に収束すると考えられます(図表1)。
もし、日本でデフレが発生しハンバーガーが1個100円になれば、為替レートは最終的には1ドル = 50円になるはずです。このように、2国間の平均的物価指数を比較することによって、為替レートの理論値を求めるのが購買力平価説です。為替レートの動きをゴルフに例えるならば、ボールはあっちに転がったりこっちに転がったりしながら、結局はフェアウェイから大きくそれないのと同じように、為替レートも短期的には上下変動を繰り返しながら、長期的には購買力平価に収束していくと考えられます。
[図表1]購買力平価説の考え方
図表2は、1980年以降の円相場の推移を示したものです。1985年のプラザ合意によって急速な円高が進んだあと、1991年のバブル崩壊以降、日本はデフレ傾向に陥ります。一方、アメリカはこの間インフレ傾向にありました。バブル崩壊後の20年余りのあいだに生じた円高は、このような日米の物価変動を考慮すれば納得できます。
[図表2]円相場の推移
一般に、為替レートの動きは緩慢です。しかし、数年たって気がつくと大きく変動していることがしばしばあります。為替取引を利用してひと儲けしてやろうなんて、ゆめゆめ思わないほうがいいかもしれません。気がついてみたら、預金額が半分になっていたということが起こり得るのが為替の恐いところです。
「カエルを熱湯に入れるとすぐ飛び出して助かるが、ぬるま湯に入れて徐々に熱すると逃げるタイミングを失って死んでしまう」というたとえ話に似ています。ただし、将来日本が財政破綻を起こして、日銀引き受けの国債が発行され、ハイパー・インフレになる可能性があるとすれば、そのヘッジとして資産の一部を外貨で保有することには意味があるかもしれません。