今回は、なぜアメリカは「ニクソン・ショック」に追い込まれたのかを見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

ドルを基軸通貨とすることの「根本的な矛盾」

IMF体制は、ドルを金といつでも交換できるという前提のうえに成立する体制でした。当初はそれがうまく機能していました。しかし、ドルを基軸通貨とすることには流動性ジレンマという根本的な矛盾がありました。

 

すなわち、国際貿易を発展させるにはドルを大量に供給する必要がありますが、ドルを印刷すればするほどドルに対する信認が低下するという矛盾です。実際、1960年頃からドルに対する信認が揺らぎはじめ、「金とドルの交換」が怪しくなりはじめます。これをドル危機といいます(図表)。

 

[図表]アメリカから流出する金

アメリカの保有する金が次第に減少した結果…

その後、事態はさらに深刻になっていきました。アメリカがベトナム戦争(1965~1975年)で1400億ドルもの戦費を支払ったことに加えて、日本やドイツが国際競争力を回復し、アメリカの国際収支が急速に悪化しはじめたのです。その結果、アメリカから金を引き出す動きが強まり、アメリカの保有する金が次第に減少していきました。

 

1971年、アメリカはついに「金とドルの交換停止」(ニクソン・ショック)に追い込まれます。これは金とドルを交換することで成立していたIMF体制の事実上の崩壊です。わずか25年の命でした。ドル紙幣はもはや金と交換してもらえない単なる紙切れとなったのです。

 

もしアメリカにインフレでも起きれば、ドル紙幣はその辺の「葉っぱ」と同じ価値しか持たなくなります。固定相場制はこうして終わりを告げ、1973年からは現在の変動相場制へと移行していきます。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

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