「モノやサービスの取引」と「金融取引」はワンセット
前回の続きです。
国際収支の統計は複式簿記の原理に基づいて記録されています。理由は、経常収支(モノやサービスの取引)と金融収支(決済という金融取引)は常にワンセットで行なわれるからです。たとえば、トヨタがアメリカに自動車を輸出して、輸出代金5000万ドルを受け取ったとします。
国際収支表では、財貨・サービスの輸出、所得の受け取り、資産の減少、負債の増加は貸方に計上し、財貨・サービスの輸入、所得の支払い、資産の増加、負債の減少は借方に計上します。すなわち、モノ(株式や債券を含む)が出ていく場合は貸方に、モノ(株式や債券を含む)が入ってくる場合は借方に記録します。
自動車をアメリカに輸出するのは製品が日本から出ていく取引ですから、経常(貿易)収支の貸方に5000万ドルが記録されます。一方、トヨタの銀行口座に5000万ドルの預金証書が入ってきますから、金融収支の借方に5000万ドルが記録され、金融収支はプラス5000万ドルになります。すなわち、輸出が増えれば増えるほど金融収支はプラスになります。
反対にアメリカから製品を輸入し、輸入代金3000万ドルを支払ったとします。このときは、モノが入ってくる取引ですから、経常(貿易)収支の借方に3000万ドル、金融収支の貸方に3000万ドルが記録されます。その結果、国際収支表は(図表)のようになります。なお、国際収支統計では貸方は左側、借方は右側に書き、通常の簿記と左右反対になります。
[図表]国際収支表の記録のしかた
経常収支が黒字の場合は金融収支がプラスに
もし、上の例のように経常収支が黒字の場合、金融収支はプラス(符号を調整するために(図表)の金融収支の金額に-1をかける)になり、日本の対外資産が増加します。この場合、日本の対外資産は200万ドル増加することになります。
一方、経常収支が赤字になれば対外資産が減少し、金融収支はマイナスになります。したがって、資本移転等収支と誤差脱漏を除けば、次の式が恒等的に成り立ちます。
経常収支 - 金融収支 = 0
(注)正確には経常収支 + 資本移転等収支 - 金融収支 + 誤差脱漏 = 0となる。