政府による経済活動介入を提唱した「大きな政府」論
資本主義が生み出した弊害を取り除くためには、資本主義そのものを否定する必要があると説いたのがマルクスでした。しかし、本当に資本主義を否定しないと、恐慌や貧富の差は取り除けないのでしょうか。
1930年代の世界恐慌が起きたとき、イギリスの経済学者ケインズは、『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)を著し、政府が積極的に経済活動に介入すれば、恐慌は克服できるという画期的な経済理論を樹立しました。すなわち、「恐慌は有効需要の不足によって起きる」として、政府が積極的に公共事業を行なうことを提唱したのです。
資本主義にはたしかに欠点があります。しかし、その欠点を政府が積極的に介入し補ってやれば、資本主義はまだまだ有効であるとケインズは考えたのです。そして、スミスの「小さな政府」を否定し、「大きな政府」の必要性を説きました。
新たな経済学は「福祉国家」の途を開くきっかけに・・・
ケインズの登場によって、政府の役割は著しく大きなものとなりました。戦後、多くの国でケインズの修正資本主義が採用されるようになり、その結果、資本主義諸国から恐慌と呼ばれる深刻な不景気はほぼ消えました。
ケインズはそれまでの経済学の常識を打ち破り、経済学に新しい地平を切り開いたといえます。また、政府の役割が増大したことは、政治の世界にも大きな影響を与えました。生存権の考え方がケインズの「大きな政府」論と結びつき、第二次世界大戦後の「福祉国家」に途を開くことになったのです。
ケインズが新たに樹立した理論は、筆者著書『意味がわかる経済学』の第3章「マクロ経済学」で詳しく見ていきます。また、福祉国家の具体的施策については、同書、第8章の「日本の社会保障制度」で紹介します。