書籍商「では、銀行家さん。こちらがご注文の品になります。お納めください」
カチャカチャ……パカァ
銀行家「おっ……おおっ!」
女騎士「みごとな装丁だ」
幼メイド「すごく大きいのです! それにピカピカしていますぅ!」
黒エルフ「いったい何の本?」
司祭補「精霊教会の経典ではなさそうですが……」
女騎士「素材は羊皮紙か?」
書籍商「はい。最高品質のものを使っていますよ」
幼メイド「ようひし?」
銀行家「羊の皮を薄く延ばしたもののことですよ」
司祭補「1冊の本を作るのに15~20頭ほどの羊が必要だと聞きますわ」
女騎士「羊20頭……貧しい農家なら一財産だな」
書籍商「最近は紙の本も出回っていますが、丈夫さでは羊皮紙に劣りますねえ」
黒エルフ「で、結局、何の本なのよ?」
銀行家「ふふふ……。よくぞ聞いてくれました! ちょうどみなさんにご披露したいと思っていたのです!」
黒エルフ「はぁ……?」
銀行家「これは、あの『コケモモ物語』の原作本なのです!」
黒エルフ「『あの』と言われてもねえ──」
女騎士「ほ、本当に『コケモモ物語』なのか!?」
司祭補「ぜひ拝読したいですわぁ!!」
黒エルフ「って、あんたたちは知っているの?」
幼メイド「人間国で今いちばんあつい演劇作品なのですよ~」
銀行家「コケモモ物語は人間国の古典文学です。数年前、帝都歌劇団がそれを歌劇に仕上げました」
黒エルフ「帝都歌劇団」
幼メイド「そして人気ばくはつ。乙女の心をわしづかみなのです!」
女騎士「おぉ~これが原作」キラキラ
司祭補「ステキですわぁ」キラキラ
黒エルフ「乙女の心ねぇ……」
銀行家「代金は月末までに為替手形でお支払いしますね」
書籍商「毎度ありがとうございます」
幼メイド「あっ、今お茶を……」
書籍商「お気づかいなく。次のお客様が待っていますので、私はこれでおいとまします」
……パタリ
女騎士「次のお客様か。書籍商とは儲かる仕事なのだろうか?」
銀行家「儲かるかどうかはともかく、お金持ち相手の仕事ではありますね」
女騎士「金持ち相手? なぜ?」
黒エルフ「決まってるでしょ。この国では、読み書きができるのはお金持ちだけだからよ。貧乏人は教育にお金をかけられない。だから、文字が読めないまま大人になってしまう人も多いの」
女騎士「え? でも、この子は読み書きができるではないか」
幼メイド「だんなさまのえーさいきょーいくのおかげです!」エッヘン
銀行家「商業が盛んな港町では、読み書き能力が重視されています。それでも住人の4人に1人は文字が読めません。町の外に一歩でも出れば、文字を読める人はぐっと少なくなります」
女騎士「そうだったのか……」