司祭補「じつはわたしのご相談も、読み書きと関係しているのです」
黒エルフ「人が消えたって話?」
司祭補「わたしの教会では、毎晩、日没過ぎから『読み聞かせ会』をしていますわ」
女騎士「うわさには聞いている。なかなか人気のようだな」
司祭補「おかげさまで。教会では、文字の読めない人から相談を受けることが多いのです。手紙を読んで欲しい、契約書の文面を確認してほしい……。ですから、そういう人に向けて『読み聞かせ会』をすれば、教会の人気は上昇、信心も深まると考えたのです」
女騎士「経典だけでなく、詩歌や小説、伝記も読むそうだな」
黒エルフ「お金を取れば儲かりそうね」
司祭補「とんでもない! 知識は万人のもの。貧富の差別なく広まるべきですわ」
銀行家「その通りです。言葉を紡ぐのは知性ある者のもっとも根源的な芸術活動。美を楽しむ権利は身分の貴賤に関係なく──」
黒エルフ「話がややこしくなるからちょっと黙ってて」
女騎士「ふむ、話が見えてきたぞ。その『読み聞かせ会』の参加者が消えているのだな?」
司祭補「そうなのです! 読み聞かせ会には、多いときには20人ほどが参加していました。けれど最近、常連の方の姿が見えなくなっているのです」
黒エルフ「自分の仕事が忙しくなっただけじゃないの?」
司祭補「そんなはずありませんわ! どなたも、読み聞かせ会をとても楽しみにされていましたもの。どんなに仕事が忙しくても、読み聞かせ会だけは欠かさない。そういう方ばかりでしたわ」
黒エルフ「最近は軍備が進んでいるわよね。その影響だとは考えられない?」
司祭補「兵役に就く方は、無事を祈るために、必ず教会に来ますわ。それに、消えた方々のご職業に共通点はありません。戦争に関係なさそうなお仕事でも、消えてしまった方がいます」
女騎士「消えた、という言い方が引っかかるな」
司祭補「文字通りの意味ですわ。心配になって、侍女さんに見に行ってもらいましたの」
女騎士「消えた人の家を?」
司祭補「はい。侍女さんの報告では、まったく見知らぬ人が住んでいたのだとか」
黒エルフ「いよいよ怪談じみてきたわね」
女騎士「吸血鬼か狼男に注意すべきかもしれんな」
幼メイド「きゅ、吸血鬼……こわいのです~」うるうる
司祭補「あらあら、うふふ。大丈夫ですわ、こちらにいらっしゃいまし」
幼メイド「は、はい……?」
司祭補「この香り玉を差し上げますわ。魔除けの力がある香りですの。吸血鬼なんてイチコロですわぁ」
幼メイド「あ、ありがとうなのですぅ~! 司祭補さま! 大好きなのです!」ニッコリ
司祭補「あらあら♪ わたしもメイドさんのことが好きですわ」
幼メイド「司祭補さま……わたし、司祭補さまのようにお綺麗でカッコよくなりたいです……」
司祭補「うんと勉強なさい。そうすれば必ずなれますわ」
幼メイド「はいなのです!」
黒エルフ「はぁ……吸血鬼だなんて非現実的ね」
女騎士「そうでもないぞ」
黒エルフ「?」
司祭補「熱帯の影国には、暑さを嫌う吸血鬼はあまり住んでいないそうですが……」
女騎士「この辺りでは、たまに出るぞ。吸血鬼」
司祭補「出ますわねぇ……」
黒エルフ「え」
銀行家「用心しなくては」
黒エルフ「ふ、ふーん。そう。……で、でも、全然怖くないわね。人間とエルフじゃ、血の味もちちち違うでしょうししし」
女騎士「めちゃくちゃ動揺しているではないか」
司祭補「とはいえ、吸血鬼や狼男にやられたという証拠はありませんわ。バルベリ様も、ブルチオヒド様も……」
黒エルフ ぴくっ
黒エルフ「バルベリって、もしかして織物輸出商の?」
司祭補「はい。ご存じでらっしゃいましたか」
黒エルフ「ブルチオヒドは、帝都に本家がある毛皮商の分家よね?」
司祭補「まあ! どうしてそれを?」
黒エルフ「そんな……嘘でしょ……。消えた人たちの名前を教えて!」
司祭補「え、ええ……」