「両親と同居」で土地の評価額は8割下げられる
同居していた親族が取得する場合のパターンを実現する方法、すなわち親と一緒に住むことで土地の評価額を8割下げられる節税手法こそが、親世帯と子世帯が同居する「二世帯住宅」です。二世帯住宅を建てることが、小規模宅地等の特例の適用を受けるうえでどれだけ効果があるのかは、次のケースを見れば、より具体的にイメージできるはずです。
●ケース
長男だったAさんは父親が一人で住んでいる家の敷地255平方メートルの中に自宅を建てることを検討していた。父親の自宅が建っている部分の面積は155平方メートルであり、まだ庭先に100平方メートルの土地が余っていた。Aさんは相続を考えて税務的に少しでも有利な建て方はないかを考えている。
このケースで、仮にAさんが余っている100平方メートルの土地に自宅を建てたとします。その場合、Aさんが255平方メートルの土地を相続したとしても、小規模宅地等の特例は適用されません。Aさんは両親の家に一緒に住んでいないので、土地を「同居の親族」が取得したとはいえないからです。
また、同居していない親族が取得する場合、すなわち同居していない親族が取得するパターンで検討してみても同じです。Aさんは相続開始時に自分の家をもっており、そこに居住していたので“家なき子”要件を満たさないからです。
では、父親の自宅をAさんの家族も同居して生活できるよう二世帯住宅に建て替えたような場合であればどうでしょうか。
この場合には、その後、Aさんの相続した土地は「同居の親族」が取得したことになりますので、小規模宅地等の特例が問題なく適用されることになります。その結果、255平方メートルの土地すべてが80%減で評価されることになるのです。100平方メートルの土地に自宅を建てたために特例が適用されない場合に比べて、相続税が圧倒的に減ることになるのは誰の目にも明らかでしょう。
親子が1階と2階で分かれて暮らしていても同居扱いに
今のケースでも明らかなように、二世帯住宅の節税効果は絶大です。親の家を二世帯住宅にして「同居する」ことで、その敷地の相続税評価額を8割も減少させることができるのです。通常、最も多額の相続税が課されることになる土地の価値をこれほど劇的に下げられる相続税対策の手法はほかにはありません。
しかも、小規模宅地等の特例に関するルールの改正が平成25年に行われた結果、二世帯住宅は、相続税対策としてさらに使い勝手のよいものになりました。どのような改正が行われたのか、そのポイントを確認しておきましょう。
まず、第一は特例の「同居要件」にかかわるものです。かつては二世帯住宅で親世帯と子世帯が一緒に暮らしていたとしても、両者の居住空間が構造上区分されている場合には、この要件が満たされない取り扱いとなっていました。具体的にいえば、親世帯と子世帯が建物の内部で行き来できる構造でなければ「同居している」とみなされなかったのです。
そのために、たとえば、親と子どもの住む場所が1階と2階に分かれているのであれば、上と下を内階段でつなぐことが求められていました。
しかし、改正の結果、二世帯住宅の形で同居していれば、区分所有建物登記がされているものを除き、外階段で別々の玄関のように構造上区分されていても原則として「同居している」とみなされることになりました。したがって、親子が1階と2階で分かれて暮らしているような場合でも、わざわざ内階段を造る手間やコストが不要になったのです。