【解決策】借地権の買い取りと賃貸併用住宅への建替えを提案
当社では、叔母の健康状態やTさんご夫妻の意向を踏まえ、土地の買い取り、自宅の建替え、家族信託を組み合わせた相続対策を提案しました。
1.地主から土地を買い取り、借地権を解消する
まず検討したのは、地主から土地を買い取り、借地権付きの土地を所有権のある土地にする方法です。
土地を所有することで、借地契約の更新や地主の承諾に関する制約を減らし、建替えや売却などを検討しやすくなります。また、土地を所有していれば、将来の不動産活用の選択肢も広がります。ただし、土地の買い取りにはまとまった資金が必要です。
現金が土地に変わるだけで、必ずしも相続財産の価値そのものが大きく減るわけではありません。そのため、土地を購入することによる節税効果だけでなく、将来の活用方法や資金計画も含めて判断する必要があります。
今回のケースでは、借地契約の更新時期が迫っていることから、早めに地主との交渉を始める方針としました。
2.自宅と賃貸住宅を併設した建物に建て替える
次に提案したのが、現在の建物を「自宅+賃貸住宅」の併用住宅に建て替える方法です。叔母とTさんご家族が暮らせる居住スペースを確保しながら、一部を賃貸住宅として活用します。
賃貸部分から家賃収入を得ることで、建築費の借入金返済に充てる計画です。また、叔母の財産を活用し、Tさんご夫妻自身の資金負担をできるだけ抑えることも検討しました。
賃貸住宅を建築した場合、建物の相続税評価額が建築費を下回ることがあります。さらに、建築資金の借入金が相続時に残っていれば、一定の要件のもとで債務控除の対象となります。
こうした仕組みを活用することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。ただし、建物の収益性や将来の修繕費用、借入金の返済計画などを十分に検証する必要があります。
3.小規模宅地等の特例を活用できるか検討する
自宅と賃貸住宅を併設する場合には、「小規模宅地等の特例」の適用も検討します。この特例は、一定の要件を満たした宅地について、相続税評価額を減額できる制度です。
たとえば、亡くなった人が住んでいた自宅の土地については、取得する相続人などの要件を満たせば、「特定居住用宅地等」として330㎡まで80%の評価減が受けられます。また、一定の貸付事業に使われていた土地についても、「貸付事業用宅地等」として200㎡まで50%の評価減が認められる場合があります。
今回の計画では、将来的にTさんご家族が叔母の自宅へ転居し、同居することも選択肢となりました。ただし、同居すれば必ず特例を利用できるわけではありません。誰が土地を相続するのか、実際の居住状況や土地の利用状況などによって適用要件が異なります。
そのため、形式的に住所を移すのではなく、実際の暮らし方や将来の相続関係を踏まえ、慎重に計画を立てることとしました。
4.養子縁組によって相続人を増やす方法も検討する
叔母には子どもがおらず、現状の法定相続人はTさんの母親1人です。そこで、養子縁組によって法定相続人を増やす方法も選択肢として検討しました。
相続税の基礎控除額は、法定相続人の数によって変わります。相続税法上、養子を法定相続人の数に算入できる範囲には制限がありますが、要件を満たせば基礎控除額が増える可能性があります。また、生命保険金の非課税限度額にも影響する場合があります。
ただし、養子縁組は相続税対策のためだけに行うものではありません。法律上の親子関係が生じ、相続人の構成や財産の承継にも大きな影響があります。
何より、叔母本人の意思が重要です。認知症によって判断能力に不安があるため、養子縁組の意思能力を含め、慎重な確認が必要となります。
5.すでに締結している家族信託を活用する
Tさんご夫妻は、すでに叔母との間で家族信託契約を結び、預貯金などの管理を行っています。家族信託は、本人が信頼できる家族などに財産を託し、契約で定めた目的や権限に従って管理・処分してもらう仕組みです。
今回のように、本人の判断能力が低下している場合でも、適切に締結された家族信託契約があれば、受託者が契約の範囲内で財産管理を続けることができます。ただし、家族信託を結んでいるからといって、受託者がすべての手続きを自由に行えるわけではありません。
土地の買い取りや建物の建替え、借入金の契約などについては、信託契約で認められた権限や財産の名義、金融機関の対応などを確認する必要があります。そのため、既存の信託契約の内容を精査し、Tさん側がどこまで手続きを進められるか確認することとしました。
叔母の意思と生活を尊重しながら、家族が適切に財産管理を続けられる体制を整えることが重要です。
【解決に向けて】複数の建替え案を比較し、具体的な検討へ
今回の相談では、借地契約の更新時期が迫っている一方で、叔母の健康状態や意思を尊重する必要もあり、すぐに結論を出せる状況ではありませんでした。
そのため、当社では「自宅建替え案」「隣接地を含めた活用案」「賃貸併用住宅案」など、複数の選択肢を比較する提案書の作成を進めています。
また、地主との買い取り交渉に早めに着手するとともに、最新の路線価に基づく資産評価の確認、相続税の試算、借入金の返済計画や家賃収入の検証を並行して進める方針です。
約2,403万円の相続税負担を軽減する
土地の買い取りや建替え、養子縁組、小規模宅地等の特例などを組み合わせ、相続税の軽減を目指します。また、相続が発生した際に納税資金が不足しないよう、現預金の確保や不動産収入についても検討を進めています。
借地権を解消し、不動産活用の選択肢を広げる
地主から土地を買い取ることができれば、借地契約に伴う制約を減らし、将来の建替えや売却を進めやすくなります。
老朽化した倉庫や隣接する未使用の家屋も含め、敷地全体を有効活用する方法を検討しています。
家賃収入で借入金を返済し、生活費も確保する
賃貸併用住宅に建て替える場合には、家賃収入から借入金を返済しながら、叔母の生活費も確保できる計画を目指します。
収支の見通しを慎重に検証し、Tさんご夫妻に過度な負担がかからないようにすることも重要です。
叔母の暮らしを守りながら相続対策を進める
何より大切なのは、叔母が安心して暮らせる環境を確保することです。住み慣れた自宅への思い入れや健康状態を踏まえ、建替えの時期や仮住まいの必要性、今後の介護環境なども含めて検討していきます。
家族信託を活用しながら、叔母本人の意思をできる限り尊重し、家族の負担も軽減できる方法を探っていくことになりました。
【事例からわかること】節税だけを優先せず、本人の暮らしを守る
今回のように、借地権付きの自宅を所有し、本人の認知症が進んでいる場合、相続対策にはさまざまな課題が伴います。
借地契約の更新や建替え、相続税の負担など、経済的な問題だけを考えれば、早めに土地を買い取り、建物を建て替えることが合理的に思えるかもしれません。しかし、長年暮らしてきた自宅には、本人にとって大切な思い出があります。
いくら資産価値が高まるとしても、本人が望まない形で住まいを変えることが、必ずしもよい結果につながるとは限りません。特に、認知症によって判断能力が低下している場合には、本人の意思をどのように確認し、尊重するかが重要になります。
今回、Tさんご夫妻はすでに家族信託を利用していました。家族信託は、判断能力が低下した後も契約で定められた範囲で財産管理を続けられる仕組みですが、本人の意思を無視して財産を処分できる制度ではありません。
土地の買い取りや建替え、借入れなどを進める際には、信託契約の内容を確認し、必要に応じて専門家と連携することが欠かせません。
また、相続税の負担を減らすために借入れを伴う建替えを行う場合には、節税効果だけでなく、将来の収益や返済負担、建物の維持管理費まで考える必要があります。
今回のケースでは、借地契約の更新時期が迫っていることもあり、地主との交渉を早めに進めることが課題となりました。一方で、叔母の健康状態や生活環境を考えると、建替えを急ぐことだけが正解とはいえません。
相続対策は、税金を減らすことが最終的な目的ではありません。本人が安心して暮らせる環境を守りながら、財産を次の世代へ円滑に引き継ぐことが大切です。そのためには、現在の財産や家族関係だけでなく、本人の健康状態や今後の暮らしも踏まえ、実行できる対策から一つずつ進めていく必要があります。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
