「これ、畑だったよね?」娘が秋の庭で見たもの
夫婦が移住してから半年ほど経った10月、由佳さん一家が初めて泊まりがけで訪ねました。車を降り、庭を見た由佳さんは驚いたといいます。
「これ、畑だったよね?」
春には土が見えていた場所に雑草が伸び、通路との境目も分かりにくくなっていました。
枯れかけたトマトの株には実が残り、地面には収穫されないまま傷んだ野菜もあります。庭の端には、途中まで抜いた雑草を入れた袋がいくつも置かれていました。
「どうしたの、これ」
由佳さんが尋ねると、和夫さんは「夏が暑すぎたんだよ」と答えました。
朝早く作業していたものの、真夏は短時間で切り上げる日が増加。雑草はその間にも伸び、収穫、草取り、水やりをすべて続けるのが難しくなったのです。
環境省によると、近年、国内の熱中症による救急搬送人員は毎年数万人を超えており、熱中症警戒アラートなどを通じて予防行動を呼びかけています。高齢者については特に注意が必要で、暑い時期の屋外作業を「せっかく始めたから」と無理に続けることはできません。
また、収穫した野菜を洗い、調理し、食べきれない分を近所へ配るのは主に恵美子さん。大量に採れる時期には、それも負担になっていました。
由佳さんは「全部きれいにしなくてもいいんじゃない?」と提案します。
翌日、家族で庭を片付けながら話し合い、畑として使う範囲を3分の1ほどに縮小することにしました。残りは防草シートと砂利を使い、草取りの範囲を減らします。
翌年、和夫さんが植えたのはトマト、ナス、シソなど数種類だけでした。
「去年は欲張りすぎたな」
そう言いながらも、家庭菜園そのものをやめるつもりはありません。
内閣府の同調査では、65歳以上が外出する主な目的として「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%に上ります。町村部では「通院」を挙げた割合が75.5%でした。 自然環境だけでなく、買い物や医療へのアクセス、日々の移動手段まで含めて生活を考える必要があります。
地方で庭のある家に暮らせば、家庭菜園やガーデニングなど、都市部では難しかった楽しみを持てるかもしれません。その一方で、土地が広くなれば、草取りや水やり、収穫、庭の維持といった作業も増えます。
高齢期の住み替えでは、「そこで何をしたいか」とともに、数年後も無理なく維持できる広さなのか、暑さや体力の変化があっても続けられるのかを考えておくことが大切です。やりたいことを諦めずに済むよう、最初から管理できる範囲に抑えることも、長く暮らすための住まい選びの一つといえるでしょう。
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