冬が来る前に…息子が両親に勧めた“小さな家”
直樹さんは、両親に転居を提案しました。当然、正志さんはすぐには納得しません。
「ローンも払い終わってるのに、なんで今さら家賃を払うんだ」
もっともな疑問でした。年金は夫婦で月18万円。持ち家なら家賃はかかりません。賃貸へ移れば、毎月の固定費は増えます。
一方で、今の家にも固定資産税や修繕費がかかります。
何より直樹さんが重視したのは、両親が今後も自分たちで生活を回せるかどうかでした。
「この家を持ってることより、2人で普通に暮らせることのほうが大事じゃない?」
洋子さんは黙って聞いていました。
その後、親子でいくつかの物件を見学します。選んだのは、スーパーとドラッグストアが徒歩5分ほど、内科も徒歩圏にある1LDKの賃貸マンションでした。今までの家よりずっと狭くなります。
正志さんは最初、「こんなところに全部入るのか」と不満そうでした。それでも洋子さんは、室内を見て「ここなら掃除するところも少ないね」と口にしました。
転居後、生活は少し変わりました。
洋子さんは必要な分だけ買い物に行けるようになり、総菜を利用しながら簡単な料理も再びするようになりました。正志さんも近くの内科へ歩いて通っています。
酒をやめたわけではありません。弁当を買う日もあります。ただ、瓶や容器が何日も部屋に残ることは減りました。
「家が狭くなったから、散らかっていたらすぐ分かるんだよ」
正志さんはそう笑うそうです。
もちろん、持ち家を離れればすべての問題が解決するわけではありません。賃貸なら家賃が発生し、高齢になってからの住み替えでは入居審査や保証人などが課題になることもあります。内閣府の同調査でも、民間賃貸住宅への入居を断られた経験がある人のうち、その理由として61.5%が「高齢のため」、28.2%が「万一の時の身元引受人がいないため」と回答しています。ただし、この設問の回答者は39人と少なく、一般化には注意が必要です。
住み慣れた家を残すことだけでなく、買い物や通院、掃除などの日常生活を無理なく続けられるかを考えることも、高齢期の住まい選びでは重要になります。これまで暮らせていた家が、これからの暮らしにも適しているとは限りません。生活の小さな変化が重なり始めたときは、家族も交えて今後の住まい方を考えるタイミングなのかもしれません。
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