(※写真はイメージです/PIXTA)

十分な資産を築いた後、会社員を辞め、必要な分だけ働きながら暮らす「サイドFIRE」。仕事に費やす時間を減らし、自分の時間を確保できる一方、若くして安定した会社員生活を手放す選択に、家族が戸惑うこともあります。

 38歳で「会社を辞めた」息子、父が最初に聞いたこと

「会社、辞めたよ」

 

67歳の康夫さん(仮名)が長男の直樹さん(38歳・仮名)からそう聞いたのは、家族で食事をしていたときでした。

 

康夫さんは驚きました。

 

直樹さんは大学卒業後、IT関連企業に就職。その後2度転職し、30代半ばには年収1,000万円を超えていました。

 

独身で、都内の賃貸マンションに一人暮らし。派手な生活を好むタイプではなく、車も持っていません。

 

康夫さんは当然、息子がそのまま働き続けると思っていました。

 

「次はどこに行くんだ?」

 

そう尋ねると、直樹さんは「転職しないよ」と答えました。

 

「もう会社員には戻らないつもり」

 

直樹さんの金融資産は約8,000万円。

 

20代から給与の一部を投資信託などに回し、30代に入って収入が増えてからは投資額も増やしていました。勤務先の社員持株で得た資産を売却したことや、その後の運用益も資産形成に寄与したといいます。

 

現在の年間生活費は家賃を含めて約300万円。退職後も以前の取引先から頼まれた仕事を月に数日だけ請け負い、年間100万円程度の収入を見込んでいました。直樹さんは、完全に働かない生活というより、資産を基盤に仕事量を大幅に減らす道を選んだのです。

 

「これが自分には一番合ってる。時間が欲しかったんだよ」

 

しかし康夫さんは、素直に「よかったな」と言えませんでした。

 

自分は新卒で入った会社に40年近く勤務しました。景気が悪い時期もあり、仕事を辞めたいと思ったこともあります。それでも、家族を養うには働き続けるのが当然だと考えてきました。

 

「38歳なんて、これから仕事で一番面白くなるころじゃないのか」

 

思わずそう言うと、直樹さんは笑いました。

 

「それは父さんにとって、でしょ」

 

その一言が、康夫さんには引っかかりました。

 

国税庁『令和7年分 民間給与実態統計調査』では、1年を通じて勤務した給与所得者について、年齢階層別の給与所得者数や平均給与が集計されています。35~39歳は働き盛りの年代であり、直樹さんのように30代で会社員生活そのものから離れるケースを一般的な働き方と考えることはできません。

 

さらに、資産8,000万円も同世代ではかなり大きな金額です。

 

総務省『家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均結果』では、二人以上の世帯について年齢階級別の貯蓄・負債が集計されています。40歳未満の勤労者世帯の平均貯蓄現在高は867万円、平均負債現在高は1,765万円でした。住宅ローンを抱える世帯なども含むため単純比較はできませんが、38歳で金融資産8,000万円という直樹さんは、一般的な同世代の資産状況から大きく離れたケースです。

 

だからこそ康夫さんにも、「そんな生活を選べるだけの資産を作った」という息子への感心と、「本当に仕事を辞めて大丈夫なのか」という不安が同時にありました。

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