資産35億円の地主、事業に2度失敗した次男への相続に悩む
私のもとに相談に来たのは、都内近郊で先祖代々の土地を守ってきた小林正一さん(仮名・78歳)です。
正一さんが所有する土地は、実家の敷地や貸地、山林などを合わせて相続税評価額でおよそ30億円。さらに預貯金や有価証券などの金融資産も約5億円あり、資産総額は35億円にのぼります。
正一さんには2人の息子がいます。長男の隆さん(仮名・50歳)は地元の公務員として堅実に勤めあげ、実家の近くに家を構えて両親を気にかけてきました。一方、次男の卓也さん(仮名・46歳)は独立志向が強く、これまでに飲食店経営で2度事業を興したものの、いずれも数年で立ち行かなくなり、多額の借入金を抱えて撤退した経験があります。
正一さんは初回の相談で「息子2人には平等に財産を残してやりたい」と繰り返し話しており、当初は土地・現金ともに折半する内容の遺言を準備する意向でした。しかし、お話を伺ううちに、正一さんがどうしても拭えない不安を抱えていることが見えてきました。
それは、次男の卓也さんが土地の持分を相続したあと、資金繰りに困って自分の持分だけを第三者に売却してしまうのではないか、という懸念です。
資産規模が大きいだけに、卓也さんの持分だけでも数億円相当となり、金融機関や買い手からの働きかけを受けるリスクも決して小さくありません。
過去に事業資金の調達で苦労してきた卓也さんの姿を見てきただけに、正一さんの心配は決して杞憂とは言えないと感じました。仮に卓也さんの持分が見知らぬ第三者の手に渡れば、長男の隆さんが慣れ親しんだ先祖代々の土地を、望まない形で分割・売却せざるを得なくなる可能性すらあります。
共有名義の土地でも、単独で売却はできてしまう
こうしたご相談は、資産規模の大小を問わず、決して珍しいものではありません。複数の相続人に不動産を「平等に」引き継がせたいと考える方は多くいらっしゃいますが、単純に土地を共有名義にするだけでは、思わぬリスクが残ります。
民法上、共有者は自分の持分については、ほかの共有者の同意を得ることなく単独で売却や担保設定ができてしまうためです。
特に今回のように資産総額が数十億円規模となると、相続税の納税資金をどう確保するかという論点も絡み、対策を誤ると相続者間の対立がより深刻化しやすくなります。
遺言によって「平等に相続させる」ことまでは指定できても、「相続した後、その財産をどう扱うか」という相続人の“行動”そのものを縛ることは、通常の遺言や共有名義という枠組みだけでは難しいのです。
正一さんが抱えていた不安は、まさにこの限界に起因するものだと私は判断しました。
