制度への信頼こそが「安全」の正体
南米の小国・ウルグアイは、20世紀初頭から、教育制度の無償化や失業保険、8時間労働制をはじめ、さまざまな先進的な社会政策を導入してきました。今日では、中南米諸国の中で最も所得格差が低い国として知られており、日本と同様、労働者に対し年金や健康保険への加入が厳格に義務付けられています。
一般的に治安の悪いイメージを持たれがちな中南米諸国のなかで、圧倒的な治安の良さを誇るウルグアイには、低所得者層から富裕層まで、すべての国民による「国の仕組み」=制度への信頼という、安定した社会秩序の基盤が存在します。
公的医療保険:給与を受け取る一般市民は自ら選んだ私立病院ネットワークが組織する健康保険組合のような組織(ミューチュアリスタ)に加入。給料天引きで質の高い医療を受けられます。
公的セーフティネット:公立病院では、低所得者向けに、無償あるいは低価格で一定水準の医療サービスが保障されています。
「困った時には制度が守ってくれる」という国民の安心感と、社会に対する信頼感の醸成が、翻って国家や経済の安定をもたらしているという点は、現在の日本にも通ずる強みと言えるでしょう。
制度への不信感が治安の悪化を加速させる
このように、社会制度への信頼は、国家の安定を支える基盤となる一方で、公的制度や、その運用主体である政府に対する不信感の高まりは、経済状況や社会の安定性を著しく毀損する要素でもあります。
たとえば、隣国の「大国」アルゼンチンでは、過去に政府が民間年金制度を国有化し、個人の積立資産を実質的に没収するという事件が起きました。公的制度への信頼が崩壊した社会では、人々は自らの資産や安全を守るため、自助・自衛に向かわざるを得ません。このように、アルゼンチンの治安問題の悪化は、社会・国家に対する国民の信頼低下=絶望感と直結しているのです。
一方、ブラジルでも、激しい貧困と構造的格差が生み出す不安や絶望、「社会から見放されている」という国民感覚が、ギャングなどの深刻な組織犯罪を生む土壌となっています。
このような状況下で治安を守るためには、強力な警察力が必要となり、今回の中南米の旅で立ち寄ったブラジルでは目抜き通りでも百メートルおきに警察が立っており、警察をほとんど見かけなかったウルグアイとは対照的でした。
痛みを伴う改革を成し遂げる、ウルグアイの民主政治
ウルグアイの政治政策において驚くべきは、この充実した社会保障を持続させるための「政治の実行力」です。
近年、ウルグアイは日本と同様、少子高齢化という課題に直面しています。しかし、改革を先送りにしがちな日本とは対照的に、ウルグアイの政治家は国民に対し「このままでは制度が立ち行かなくなる」と正面から説明しました。
持続的な社会保障制度の実現のため、約3年という歳月をかけて国民と対話を重ねた結果、年金支給開始年齢の引き上げなど、痛みを伴う改革を民主的に成し遂げたのです。このウルグアイ政府の姿勢は国際的にも高く評価され、今日主要格付け会社から過去最高の評価を獲得するに至っています。
年金や健康保険への信頼は、社会や経済の安定を支える大切な土台です。同じく、少子高齢化という大きな課題を抱える今日の日本。簡単なことではありませんが、日本も知恵を絞りながら、この社会保障制度を何とか維持していくことが重要だと感じます。
本名 正博
マネージングディレクター
希合KYGO
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