遺言書の存在を知らずに分割協議を行うと・・・
遺言者に相続があった場合に、残された相続人が遺言書の存在を知らない場合があります。相続人間で分割協議を行った後に、遺言書が発見されれば、その分割協議が無効になることもあります。
例えば、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされていますので(民法990)、包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議は無効となります。
民法第1023条第1項で、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定されており、作成された日付が一番新しい遺言書が有効な遺言書となる「後遺言優先の原則※」が適用されます。
※ 先の遺言が後の遺言と抵触するときには、抵触する部分について後の遺言が優先することとなります。
包括遺贈・包括受遺者
遺言によって無償で財産を他人に残すことを遺贈といい、遺贈は、相続財産を特定することなく、その全部又は一部を特定の者に贈与することができ、これを「包括遺贈」といいます。また、包括遺贈を受ける者を「包括受遺者」といいます。
公正証書遺言・秘密証書遺言の確認方法
公正証書遺言や秘密証書遺言であれば、平成元年(東京都内は昭和56年、大阪府内は昭和55年)以降に作成された公正証書遺言等は、日本公証人連合会において、全国的に、公正証書遺言等を作成した公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等をコンピュータで管理しているので(図表1)、最寄りの公証役場で遺言書の作成の有無を検索することができます。
公正証書遺言の場合、遺言者の死亡後、相続人・受遺者などの利害関係人、又はその委任状を持った代理人や遺言執行者は謄本の交付を請求することができます。
しかし、秘密証書遺言については、公証役場に遺言書が保管されていないため、謄本の交付を受けることができません。遺言者は死後に発見されやすい場所に保管しておくか、信頼できる人に預けておくなどの必要があります(自筆証書遺言においても同様)。
【図表1】 公正証書遺言の数の推移
遺言書の「偽造・変造」を防止する検認
検認の請求
遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません(図表2)。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上、開封しなければならないことになっています。
検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
検認済証明書は、遺言書とホチキス等で綴じ、割印(契印)されています。検認済証明書は、裁判所書記官によって作成されます(図表3)。「平成28年(家)第1234号 遺言書検認申立事件」のように事件番号が付され、「本件遺言書の検認を終えたことを証明する。」といった文言が書かれています。
また、公正証書遺言以外の遺言書によって不動産の相続登記を行う場合は、家庭裁判所の検認済証明書が必要とされます。
【図表2】 遺言書の検認件数
【図表3】 検認済証明書