「やめられると思っていた」状態からの逸脱
正一さん自身も、当初は「その気になればいつでもやめられる」と考えていました。しかし、実際には通う習慣は簡単には断ち切れませんでした。負けが続くと取り返そうとし、勝てばもう一度と足を運ぶ――その繰り返しの中で、冷静な判断が難しくなっていきます。
こうした射幸性の高い支出については、生活費への影響や依存性のリスクに注意が必要です。特に収入が固定される高齢期においては、支出の増加がそのまま資産の減少に直結します。
問題は家計だけにとどまりませんでした。良子さんは、支出の増加そのもの以上に、「相談なく続けていたこと」に強い不信感を抱いたといいます。
「お金の問題というより、話してくれなかったことがつらかったです」
その後、夫婦の会話は減り、家庭内の空気も変わっていきました。正一さんも状況の深刻さを認識しながらも、すぐに行動を変えることはできなかったと振り返ります。
最終的に、正一さんは家計の見直しとともに、通うことをやめる決断をしました。しかし、それまでに失われた資産は決して小さくはありませんでした。
「こんなはずじゃなかった、という思いが強いです」
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』でも、高齢世帯は平均的に毎月の赤字を抱え、貯蓄の取り崩しで補っている実態が示されています。そこに追加の支出が重なれば、家計の持続性は大きく揺らぎます。
現在、夫婦は家計を共有しながら、支出管理を見直しています。関係も徐々に落ち着きを取り戻しているものの、「完全に元通りとは言えない」と正一さんは語ります。
「自由な時間が増えたからこそ、どう使うかが大事だったんだと思います」
老後の安定は、年金額や資産の多寡だけで決まるものではありません。日々の行動や習慣が、その基盤を静かに揺るがすこともあります。小さな「暇つぶし」の積み重ねが、やがて大きな代償となる――その現実は、決して特別なケースではないのかもしれません。
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