「一足早い自由だ!」定年退職を迎えた元国家公務員夫婦
佐伯修一さん(仮名・61歳)と妻の恵子さん(仮名・61歳)は、長年国家公務員として働いてきました。修一さんは地方出先機関の技術職、恵子さんは事務職として勤務。共働きで安定した収入を得てきたこともあり、生活水準は「平均より少し上」という自覚はあったといいます。
定年退職時、夫婦が受け取った退職金は合計約4,200万円。それに加えて、現役時代に積み立ててきた貯蓄が約1,000万円ありました。合わせて約5,200万円の資産です。
子ども2人はすでに独立。再任用でまだ働くことも可能でしたが、給与水準が大きく下がること、すでに十分な資産があることから、夫婦は60歳での退職を選びました。
退職後、まず手をつけたのは住宅ローン。佐伯さん夫婦は52歳でマンションを購入しており、退職時点でも約1,800万円のローン残高がありました。そこで、退職金の一部を使い、繰上げ返済を実行。ローンの不安がなくなったことで、精神的に大きな安心感が生まれました。
さらに、長い休みが取りづらかった現役時代の反動もあり、3週間ほどのヨーロッパ旅行を皮切りに、3泊程度のアジア旅行、国内旅行などにも出かけました。
「こうやってあちこち行けるのも、これまで忙しく働いてきたご褒美だ」
そんな言葉を交わしながら、外食や買い物などにもお金を使うようになっていきました。しかし、退職から1年ほど経った頃には、通帳を見て唸ることになります。
貯金の減りが早すぎる…噂話も「他人事ではない」
退職当初、夫婦が持っていた金融資産は約5,200万円。ところが、住宅ローンの繰上げ返済や旅行費用、外食や生活費の取り崩しなどを経て、貯金はすでに約2,900万円まで減っていたのです。
「さすがに減るのが早すぎるよな……」
年金の受給開始まで、まだ数年あります。夫婦は、まだ貯金はあると話しながらも、心の隅に不安を感じるようになっていました。
そんな不安をさらに強めたのが、同期で集まった席で耳にした、ある噂話でした。かつて同じ職場で働いていた5歳年上の先輩が、ショッピングモールの駐車場で車の誘導係として働いているのを見た、というのです。その先輩も、佐伯さんと同じように60歳で再任用を選ばず退職した人でした。
「真夏の暑い日に、大変そうだったよ。噂では、お金に困って働いているって……」
佐伯さんには、とても他人事には思えませんでした。年金を受け取れるのは65歳から。それまでは収入がありません。住宅ローンは完済したとはいえ、生活費を考えれば、年金受給までに少なくとも1,000万円ほど取り崩すことが想定されました。
このままのペースでお金を使っていたら、減少スピードはそれ以上でしょう。「先輩の話は、未来の自分の姿かもしれない」――。つい先日まで、「余裕の老後」を思い描いていたはずなのに、佐伯さんの胸は一気に不安で埋め尽くされました。
