ノベル版『女騎士、経理になる。』~第2章その⑯

原作:Rootport
イラスト:こちも
提供:デンシバーズ
ノベル版『女騎士、経理になる。』~第2章その⑯

幻冬舎コミックス運営のWEBマンガ雑誌「デンシバーズ」と幻冬舎ゴールドオンラインによる特別コラボ企画。デンシバーズの好評連載『女騎士、経理になる。』の原作小説で、2016年6月24日に発売された単行本『女騎士、経理になる。①鋳造された自由』のプロローグと第1章、第2章、第3章を無料公開します。今回は第2章「ガバメント・オブリゲーション」その⑯です。

▼王宮

 

頭取「……では、港町の連中は立候補を取り下げなかったのですか?」
財務大臣「うむ。まるでヒルのように頑固で強欲な女どもだった」

 

頭取「すると、どちらの銀行が仲介業者に選ばれるのかは……」
財務大臣「精霊教会の司祭補の気分次第、だな」

 

頭取「……参りましたね」
財務大臣「まったくだ」

 

頭取「国債購入の窓口になるのは、司祭補のセラフィム・アガフィアさまだとおっしゃいましたね」

 

財務大臣「さよう。頭の弱そうな女だ」

 

頭取「しかし聞くところによれば、彼女は怪しき術を使うのだとか?」

財務大臣「腐っても精霊教会の司祭補だ。魔法の1つぐらい使えても不思議はない」

 

頭取「言われてみれば、その通りでございますね。もう10年近く本物の魔法使いにはお目にかかっていないので、つい……」

 

財務大臣「もとより魔法を使える者はごくわずかだった。そのほとんどが兵役で新大陸に赴き、そのまま消息知れずだ。この私でも、魔法使いと言葉を交わすのは1年に数えるほどだな」

 

頭取「大臣さまほどのご身分でも……ですか」

 

財務大臣「以前は宮仕えの魔法使いにやらせていたことができなくなり不便している。こうなったのも魔族のせいだ」

 

頭取「であれば、司祭補セラフィムさまがお若いのも……」

 

財務大臣「うむ、競争相手が少なかったのだろう。そうでなければ、あの若さで司祭補に選ばれることはありえんだろう」

 

頭取「それを聞いて安心しました。セラフィムさまご自身の優秀さゆえに出世されたのであれば、一筋縄ではいかない相手になるだろうと身構えておりました」

 

財務大臣「ふんっ、私にしてみれば小娘にすぎぬ。そもそも私はアンチマジックLv3を持っているのだ」

 

頭取「アンチマジックLv3」

 

財務大臣「詳しくは説明しないが、魔法の1~2発なら簡単に無効化できる。司祭補がどんな怪しい術を持っていようと、私には関係のないことだ」

 

頭取「大変心強いお言葉、勇気づけられます。……それにしても、港町の銀行はずいぶん悪知恵の働くやつらのようです。目録をご覧になりましたか?」

 

財務大臣「ふむ、これがその目録だな」

 

ぴらっ

 

頭取「さようでございます。港町と取引のある商人を片っ端から訪ねて、あの銀行に売りつけた商品の一覧を提出させました。しかし……」

 

財務大臣「紙や墨、油、蝋……。ありふれた物品ばかりだな」

 

頭取「そうなのです! あの規模の銀行なら、後ろ暗い商品を……違法な薬や武器の1つや2つは買っているはず。にもかかわらず、その目録にはそんな商品は載っていません」

 

財務大臣「つまり、巧妙に隠匿していると?」
頭取「まず間違いなく」

 

ぴらぴら

 

財務大臣「ふぅむ、たしかに……美術品の購入が目立って多いようだが……」

 

頭取「港町銀行の主は、どうやら芸術オタクのようですね。作者や時代、地域にこだわらず、彫刻や絵画を買いあさっているようでございます」

 

財務大臣「そうか。他に何か面白い話はないか?」

 

ぴらぴら

 

頭取「面白い話でございますか?」
財務大臣「うむ。港町に関することなら何でもかまわん」

 

頭取「そうですね、面白い話と言いましても……。あの町の銀行に関係する話となると……」

 

ぱらぱら

 

財務大臣「銀行にこだわらなくてよい。あの町のできごとで、何か変わったことはないのか?」

 

頭取「そうですねぇ……。ダークエルフの奴隷の話ぐらいでしょうか」
財務大臣「ダークエルフ?」ぴたっ

 

頭取「はい、以前もお話しした通り、港町にはわたくしどもの銀行の支店がございます。その支店長から聞いたのですが……ふた月ほど前、あの町にダークエルフの奴隷が入荷されたそうなのです」

 

財務大臣「そのダークエルフ、もしや女ではないか?」
頭取「その通りです。大臣さまもこの話をご存じでしたか?」

 

財務大臣「いいや、初耳だ。詳しく聞かせろ」

 

頭取「その奴隷を支店長が購入しようとしたところ、若い女に横取りされたそうです。法外な値段で買い取ったのだとか。……ダークエルフの奴隷を購入したのは、金髪碧眼の女騎士だったと聞いています」

 

財務大臣「金髪碧眼」

 

頭取「さして面白い話でもなく恐縮です」
財務大臣「……いいや、面白い。じつに面白い!」

 

ぱらぱら

 

頭取「?」

 

財務大臣「ふふふ、思い当たることがあるのだよ。その奴隷と女騎士の人相を聞いているか? 詳しく教えろ」

 

ぱらぱら

 

頭取「か、かしこまりました……」

 

財務大臣「っと、その前に。何だ、これは?」ぴたっ

頭取「どうなさいましたか?」

 

財務大臣「むむむ……。港町銀行は、こんなものを買っているのか?」
頭取「こんなものと申しますと?」

 

財務大臣「ほれ、この目録を見てみろ」

 

ぴらっ

 

頭取「こ、これは……!?」
財務大臣「ふはは! どうやら馬脚をあらわしたようだな、あの女どもめ!」

 

頭取「これさえ見せれば……」

 

財務大臣「ああ、そうだ! 精霊教会が港町銀行を選ぶことはない。絶対にありえん! ふふふ……ははははは……!」

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

原作:Rootport,イラスト:こちも

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