もし明日、この世から「スマートフォン」か「小麦や米などの主食用穀物」のどちらかが消えるとしたら?市場価値はどちらもほぼ互角ですが、GDP(国内総生産)で見ると、主食を支える産業はわずか1%程度の“取るに足らない存在”とされています。本記事では、バーツラフ・シュミル氏の著書『世界はいつまで食べていけるのか:人類史から読み解く食料問題』(栗木さつき訳、NHK出版)より一部を抜粋・編集し、人類が生き抜くために注力すべき産業の「真の優先順位」を解説します。
スマートフォンと穀物の比較で見る「真の経済的価値」
意味がない理由――それはこのランキングが、ほかのもので代わりがきかない必需品と、それがなくてもすませられる、取るに足らない場合もある活動とをいっさい区別せずに評価した結果であるからだ。いくつかの数字を比較するだけでも、それがよくわかる。
金融サービスの世界市場はいま20兆ドルを超え、世界のGDP合計の4分の1近くを占めており、その5分の1(世界の農業総産出額に匹敵!)を失うと、その規模は約10年前と同じになる。
そうなればある程度の経済的混乱は生じるだろうが、世界の食料生産量の5分の1(15億人以上の食料に相当する!)を失えば、食料不足が生じたり、大勢の人が命を落としたりするだろう。
産業の重要度を経済面から評価する愚かさをさらに強調するために、スマートフォンと主食用穀物の価値を比較してみよう。
2021年、世界のスマートフォンの市場規模は約4000億ドルで、これは同年の世界の小麦と米の市場規模(年間平均小売価格がそれぞれ1トン当たり260ドルと460ドルとして算出)よりも10%ほど少ないだけだ。ある日突然、携帯電話がなくなれば、もちろん、いくらかは問題が生じるだろう。
だが、インターネットがそのまま無傷で残るのであれば、もっとも重要な2種類の主食用穀物がほとんどすべて、13億トンも失われ、前例のない飢饉が生じ、こんにちの世界人口80億人のかなりの割合が命を落とすという結果と比べれば、携帯電話がない世界である程度の対応を迫られたとしても、事の重大さは比較にならないはずだ。
著者:バーツラフ・シュミル
カナダ王立協会
フェロー/マニトバ大学特別栄誉教授
翻訳:栗木 さつき
翻訳家
カナダ王立協会
フェロー/マニトバ大学特別栄誉教授
マニトバ大学特別栄誉教授。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策等の分野で学際的研究に従事。
2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。
おもな著書に『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』『SIZE』(以上NHK 出版)、『Invention and Innovation』(河出書房新社)、『エネルギーの人類史』(青土社)。
撮影 Andreas Laszlo Konrath
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翻訳家
慶應義塾大学経済学部卒業。
訳書に、サイモン・シネック『WHYから始めよ!』、ポール・スミス『リーダーはストーリーを語りなさい』(いずれも日本経済新聞出版社)、トレーシー・アロウェイ、ロス・アロウェイ『脳のワーキングメモリを数える!』(NHK出版)などがある。
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