「納得できる相続」の舞台裏
相続の支援現場では、表向きの数字や書類だけでは見えてこない課題が多く存在します。財産の評価や分割方法は一見シンプルに思えても、実際には家族間の信頼関係、将来の生活設計、地域とのつながりといった“目に見えない要素”が複雑に絡み合っています。ここでは、実際の支援事例を通じて見えてきた課題と、それを乗り越えるための工夫を紹介します。
事例1:事業承継と公平感のはざまで
地方で製造業を営むA家は、父が高齢となり長男が事業を継ぐことが決まっていました。しかし、財産の大半が事業用資産であり、工場や設備、事業用地のほか、会社株式が相続財産の中心です。法定相続分に従うと事業資産を分けざるを得ず、事業継続が困難になる可能性がありました。一方で、長女と次男は「事業を継がないことで取り分が減るのは不公平ではないか」という思いを抱えていました。
工夫された支援
専門家チームは、事業資産とそれ以外の資産を整理し、代償分割の可能性を検討。会社の利益や不動産賃料から代償金を長期分割で支払う仕組みを提案しました。さらに将来会社が安定成長した場合には追加分配を行う条件を盛り込み、兄弟間の理解と納得を引き出しました。
事例2:旧家と感情のもつれ
B家の相続財産には、母が長年暮らしていた実家が含まれていました。築年数は古いものの、代々受け継がれてきた旧家であり、手入れの行き届いた立派な庭も残されています。
しかし誰も住む予定はなく、次男と三女は維持費や固定資産税の負担を理由に売却を主張しましたが、長女は「母の思い出と家族の歴史が詰まった家だから残したい」と強く反対。感情的価値と経済合理性が真っ向から対立し、話し合いは容易にまとまりませんでした。
工夫された支援
専門家はまず、実家の維持コストや今後の修繕見通しを具体的な数値で可視化しました。その上で、家の写真や図面、母の思い出の品を整理・保存して残す方法を提案。長女の「思い出を残したい」という気持ちに寄り添いつつ、建物の老朽化や管理負担のリスクを踏まえ、最終的には売却を決断しました。売却に際しては、家の一部の建材や庭石を記念として残すことを提案。こうして家族の思い出を次の世代へつなぎながら、現実的な資産整理と感情の整理を両立させることができました。
事例3:税負担の偏りを避ける工夫
C家には複数の賃貸不動産があり、それぞれ収益性や評価額が大きく異なっていました。初期案では、長男に高収益物件、次男に低収益物件が割り当てられ、将来的な収入格差が問題となりました。
工夫された支援
収益性・維持コスト・将来修繕費を含めた「総合評価表」を作成し、公平性を可視化。次男の物件には修繕積立分の現金を加えることでバランスを取り、双方が納得できる分割に落ち着きました。
事例4:二世帯住宅の共有問題
D家では、親名義の二世帯住宅に長男家族が同居していました。相続時に住宅をどう評価・分割するかが課題となり、同居していない次男夫婦から「同居している長男が実質的に恩恵を受けているのではないか」と、公平性に関する不満が生じました。
工夫された支援
相続財産全体のバランスを考慮し、住宅の評価額と他の資産との合計を調整。長男には住宅を優先的に相続させる一方で、その分の差額を現金や金融資産で次男に配分する方法を取りました。
事例5:海外在住相続人との合意形成
E家では、相続人の一人が海外在住で、時差などの問題から連絡や意思確認が遅れがちでした。情報の不透明感が他の相続人の不信感を招き、議論が停滞していました。
工夫された支援
オンライン会議を活用し、全員が同じ情報を同時に共有できる体制を構築。海外相続人にも選択肢とその根拠を丁寧に説明することで、不信感を解消し合意形成をスムーズに進めることができました。
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