今回は、「電子マネー」を使ってはいけない理由を説明します。※本連載では、TSPコンサルティング株式会社の代表取締役で、ファイナンシャル・プランナーの佐藤毅史氏の著書『お金でバカを見ない人になる36の知恵』(サンマーク出版)の中から一部を抜粋し、自分の財産を守るためのポイントをQ&A形式で解説していきます。

あなたが買った「Suica」は駅ビルに姿を変えた!?

【質問】

電子マネーの賢い使い方を教えてください。

 

電子マネーはたしかに便利ですよね。いちいち小銭を出さなくて済みますから……。

 

でも電子マネーの存在意義を知っていますか?

 

たとえば、JR東日本のプリペイド型電子マネーの「Suica」は、発行枚数が2014年1月現在4557万枚です。返却時に払い戻されるデポジットとして500円がカード作成時に徴収されますから、JR東日本は230億円弱の現金収入があったことになります。

 

そのお金でJR東日本は何をしたのでしょうか。

 

実は、お金を使った先は駅ビルのアトレです。あれはあなたが買ったSuicaで造られたビルですからね。

 

JR東日本はきっと頭のいい人の集まりでしょうから、利息の計算くらいはしているはずです。仮に230億円を金融機関から借りたとします。利息が1%だったとしても、1年間に2.3億円もの利息を支払わないといけません。すごい金額です。

 

一方、ICカードなんて1枚つくるのにたいしたお金はかからないでしょう。だったら、金融機関に利息を払うよりも、無利息で資金を調達できるSuicaを発行して現金をかき集めたほうがお得に決まっています。

 

「解約する人だっているんじゃない?」と疑問に思う人がいるかもしれません。

 

たしかに、解約したらデポジットの500円は返却されます。でも、チャージ代金が残っていると手数料220円が発生するという、とんでもない仕組みになっているんです(ただし、残高が上限)。

 

この理不尽なシステムが功を奏してか、解約してデポジットの500円を返金してもらう人って意外と少ないんですよ。

自分で「支払っている」意識が薄れる電子マネーのワナ

それに、Suicaを手に入れてからあなたは何年使っていますか?

 

デポジットした500円は、当時の500円よりも価値が低くなっている可能性があります。なぜならインフレで物価が上昇した場合、以前よりも多くお金を払わないと同じ品物が買えないからです。物価が上昇すると、お金の実質的価値は目減りするんです。

 

たとえば、数年前まで𠮷野家の牛丼は税込み280円でした。しかし、今は380円。マクドナルドも以前は65円でハンバーガーが買えましたが、今は100円です。

 

それぞれ100円と35円の値上がりですから、たいしたことないと思うかもしれません。でも、パーセンテージで表すと36%と54%の値上がりですよ。これまで月10万円払っていた家賃が、大家さんから「来月から家賃54%値上げね」と言われたらどうしますか。大きいですよね。

 

日本は今後インフレが進むと考えられます。なぜなら、借金しまくっている国がその借金を棒引きする方法はインフレにするしかないからです。

 

だから、これからますます貨幣価値は下がっていくんです。

 

なお、数種類あるSuicaのなかでも、紛失時に再発行してもらえて、チャージ残額が保証されるからと、記名式の「My Suica」を選んでいるのであれば、登録時に氏名、生年月日、性別、電話番号などの個人情報もタダで渡しているような状態です。

 

「Suicaの残高が今いくらありますか?」と聞かれて、あなたは答えられますか?

 

おそらく99%の人は答えられないと思います。金額が見えづらくされているからです。いわゆる不可視化です。

 

残高がわからなければ、今いくらチャージされているのかわかりませんから、自分で支払っている意識が働かず、お金が出ていく感覚は得られません。そのおかげで抵抗なくジャンジャン使えます。カードをリーダーにかざして、ピッピッピッとジュースやらコーラを買ってしまうんですね。

 

これ、クレジットカードと同じですね。

 

余談ですけど、自動販売機も使わないほうがいいですよ。

 

自販機はオーナーの小遣い稼ぎのために存在しているようなものです。だいたい缶ジュース1本につき20円から30円がチャリンチャリンとオーナーの財布に入ります。それに自販機はオーナーの敷地内に置きますから、敷地利用料金、つまり賃料も入ってくるんです。

 

缶ジュース1本150円のうち20円から30円はオーナーへ入って、賃料もあって、広告費や自販機の維持費もあって、それでも利益が出る商品なんです。つまり、それだけ原価が安いんですよ。家で麦茶をつくって持っていったほうがよっぽどお得です。

お金が出ていく「オートチャージ機能」の落とし穴

電子マネーに話をもどしましょう。

 

さらにお金を使わせようとするのがオートチャージ機能です。これが最悪なんです。

 

たとえば、残高が1000円になると、自動的に1000円チャージされる機能ですね。だから意識せずにジャンジャンお金が出ていく仕組みになっています。お金を使っているのに、使っている感覚をますますなくしているんです。言いかえると、私たちから主体性、考える力を奪っていってるんです。便利になるということは、主体性がなくなること。これがいちばん怖い。

 

笑い話になりますが、私もオートチャージの落とし穴にはまったことがありました。

 

まだ会社員のころ、オートチャージ機能が付いているSuicaの定期券を使っていたんです。そのときに、最近やたらと残金が減っていくなと思うことがありました。でも、外回りをする機会が多かったので、それだけ電車を使っているんだろうと思っていたんです。

 

ある日、さすがにおかしいなと思って確認してみたら、定期券が3か月前に切れていたんですよ。つまり普通に電車料金を払っていたんです。オートチャージ機能がなければ、残金がないと改札口を通れないので定期が切れていることに気づけますが、オートチャージ機能があると気がつかないんです。

 

そのときに、いかにお金に対する知識と理解、つまりマネーリテラシーが自分に欠如しているかを痛感しました。それと同時に、意識させずにお金を使わせる世の中の搾取の仕組みにも気づいたんです。

「ポイントのため」にお金を使う本末転倒なループ

プリペイド型のICカードには、Suicaなどの交通系の他にも流通系のカードがあります。セブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」、イオンの「WAON」が代表的なものですね。「nanaco」にいたってはクレジットカードからチャージする機能も付加できるようになりましたから、お金の不可視化がどんどん進んでいます。

 

私は、チャージ式のICカードは現金を払わされ続けるので、使わないほうが身のためだと思っています。

 

ポイントがつくからお得だよね、と思っている人がいるかもしれませんが、それってポイントを貯めるためにお金を使うという、本末転倒なループに入っているだけです。

 

100円で1ポイントを獲得したところで何になるっていうんですか。たしかに〝ちりも積もれば〟ですが、もっとお得なものが世の中にはありますよ。

 

便利になるということは、その反対に主体性がなくなるということです。私たちから考える力を奪うことで、国や企業から気づかないうちに搾取されていることが多いんです。世の中、常に裏表がある。便利のウラには、お金を使わせるような動きがあることに気づいてください。

 

そんな目にあうくらいなら、たとえ不便であっても、私はいつもニコニコ現金払いを選びます。そうしないかぎり、搾取が横行する今の時代に「お金を残す」ことはできませんからね。

 

【答え】

お金の「見えない化」が進むと、考える力が奪われます。その典型例が電子マネーです。

本連載は、2015年10月刊行の書籍『お金でばかバカを見ない人になる36の知恵』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

お金でバカを見ない人になる36の知恵

お金でバカを見ない人になる36の知恵

佐藤 毅史

サンマーク出版

世の中には「ウラがある」話がけっこうあります。電子マネーやクレジットカード、株、投資信託などはその典型です。いずれも「便利ですよ!」「お金が増やせますよ! 」「初心者にも安心ですよ! 」という言葉で本質を見えなく…

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