地方移住において、「家賃が下がる」「生活費が浮く」といった経済的なメリットを期待する声も多く聞かれますが、現実は必ずしも計算通りにはいきません。光熱費や地域の維持費など、都会では想定しなかった出費が家計を圧迫することも珍しくないのです。それでもなお、多くの移住者が満足感を得ているのはなぜなのでしょうか。ある家族のケースをみていきます。
年収800万円・45歳の広告マン、北アルプスに移住も〈年収半減・貯蓄300万円取り崩し〉…それでも「地方移住して幸せです」と言い切るワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

地方移住者の3割が感じる「生活費の誤算」…それでも高まる「幸福度」の正体

田中さんの事例のように、地方移住には金銭的なメリットだけでなく、想定外のコストが伴うケースが少なくありません。

 

総務省『家計調査 家計収支編』をみると、地方圏は家賃こそ安いものの、「水道光熱費」「自動車関係費」などが都市部を大きく上回ることも珍しくありません。特に寒冷地では、暖房費や除雪用具への出費が家計を圧迫し、都心部と同じ生活水準を維持しようとすれば、生活コストはむしろ上昇することさえあります。

 

しかし、ここで注目すべきは「主観的な幸福度」です。

 

株式会社マイナビ/マイナビ転職が、800名の地方移住転職・Uターン転職経験者、検討者を対象に行った『地方移住転職・Uターン転職の年収変化と満足度調査2025年』によると、地方移住転職・Uターン転職者の平均年収は413.4万円で、転職前の年収から約80万円ダウンと回答。

 

また地方移住転職・Uターンによる生活の変化で良くなったものは「ワーク・ライフバランス」(45.3%)、「毎日の幸福感」(44.8%)、「通勤ストレス」(43.5%)と回答し、64.3%の人が「地方移住転職・Uターン転職をしてよかった」と回答しています。

 

収入減というマイナス要因がありながら地方移住をしてよかったと思えるのは、金銭換算できない価値(非金銭的報酬)が大きく寄与していると考えられます。

 

田中さん夫婦のように、経済的な「豊かさ」の定義を、消費の量から時間の質へとシフトできた世帯にとって、地方移住は数字以上のリターンをもたらす選択肢となり得るようです。重要なのは、事前の緻密な収支計算もさることながら、想定外の事態が起きたときに「それでもここで暮らす価値があるか」と笑って言えるだけの、明確な移住目的を持っているかどうかなのかもしれません。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編』

株式会社マイナビ/マイナビ転職『地方移住転職・Uターン転職の年収変化と満足度調査2025年』