(※写真はイメージです/PIXTA)
誰も悪くないのに居心地が悪い…
加藤健一さん(72歳・仮名)。同い年の妻・恵子さんとともに、長男の修平さん(43歳・仮名)一家と二世帯同居をしています。
傍から見れば三世代同居の加藤さん家族は、幸せそのものです。住宅ローンは完済しており、貯蓄は2,000万円ほど手元にある。日常生活のベースとなる年金も夫婦で月32万円と、経済的な不安は一切ありません。大きな持病もなく、毎朝の散歩を欠かさない健康体です。しかし、加藤さんの表情には、どこか追い詰められたような陰りがあります。
「朝、起きてから寝るまで、ずっと気を遣い、息を潜めて生活をしている感じです」
加藤さんが住むのは二世帯住宅とはいえ、キッチンやリビングは共有のタイプ。最近、彼が最も辛いと感じるのは、長男夫婦や孫と顔を合わせる瞬間だといいます。
「私がリビングへ行くと、それまで盛り上がっていた会話がスッと止まり、義娘が慌てて立ち上がるんです。『お義父さん、何か飲みますか?』『テレビ、見たい番組ありますか?』と。親切心なのは痛いほどわかります。二世帯住宅にする際のお金は、すべて私たちが出したので、気を遣うのもわかる。でも、その過剰なまでの配慮が、こちらが気を遣う一番の原因でして……」
嫌われているわけではありません。むしろ、息子夫婦は加藤さんを大切に扱おうとしてくれています。しかし、その「気を遣い合っている」という事実が、行動の端々から透けて見えるのです。
たとえば、加藤さんがキッチンを使おうとすると、義娘は作業を中断して場所を譲る。加藤さんがソファに座れば、長男が姿勢を正してスマホを置く。孫も、加藤さんがいる前では友達と電話をするのを控える――。
そんな「お互いの遠慮」が積み重なり、家の中に常に薄い緊張感が漂っています。
「彼らが仕事や学校から帰ってきて、リビングでくつろぎたいだろうなと思うと、私は自室から出られなくなるんです。私がいないほうが、彼らは大きな声で笑い、自由に過ごせるだろうなと」
加藤さんの楽しみは、図書館の学習室で過ごす時間だといいます。何かを勉強しているわけではなく、ただリラックスできるからです。
「自宅なのに落ち着かない。図書館が一番リラックスできる――本末転倒ですね」