アルマジロのように、金銭的には「守り」の姿勢へ
『自分をみつめる禅問答』( 南直哉著・角川ソフィア文庫)によると、カリスマ禅僧は「生きる意味は、あらかじめ存在しない、生きるなかから作られる」とする。すると、その条件下、定年後の人たちこそ「生きる意味」を知っているはずだ。
ただ、それぞれの人間が生きた時代によって、それに相応しい生き方というものがある。現在、還暦を迎えた人たちは、これまでの同世代以上に、守りに徹する必要があるかもしれない。
具体的に言うならば、支出をできる限り少なくして、マイナスを減らしていく。60歳以降は収入が減り、貯えを取り崩していかざるを得ない。手元資金が増えないとしても、それが減るスピードを遅くすることはできる。
マイナスをなくすことが不可能だとすれば、その度合いを少なくするということに力点を置く。つまり「マイナスのミニマム化」。少なくとも、そう考えると、ずいぶん気持ちが楽になるはずだ。
それは動物で言えば、極力動かないことをモットーとするナマケモノの生存戦略に近い。ナマケモノはなるべく動かずに基礎代謝を減らし、エネルギー消費を極力抑えている。こうした逆転の発想で、これまでずっと生き延びてきたのだ。
「生きる意味」を知っている定年後の人たちは、精神的には豊かな老後を辿れるはずだ。そのため、あとは金銭的に守りの姿勢に入り、アルマジロのように守りに徹する……大丈夫、月に1000円程度で数千作もの映像を観られる時代、おカネに縛られる必要はない。
コロナ禍で明らかになった「新たな価値観」
2020年の初頭から世界を席巻したコロナ禍によって、そんな生き方が十分に可能であることを、私たちは図らずも発見した。
緊急事態宣言が発令されて飲食店が営業を控え、ビジネスパーソンの多くが夜の街に飲みに出歩かなくなった。旅行もしないばかりか、買い物すらネットで済ませる。家にひきこもって、ネットで映画を観たりリモートで仕事をしたりするような日々が続いた。
逆に言うと、世の中には、実に便利なものが数多くあることが分かった。たとえばユーチューブには無料で楽しめるコンテンツがあるし、ネットフリックスやアマゾンプライム、あるいはフールーなどの有料コンテンツも、月1000円くらいで、バラエティに富んだ動画が見放題である。
昔と比べて断然安い値段でコンテンツを観ることができる。それほど、おカネをかけずに楽しめる。こんなに便利な時代はなかった!
しかも、仕事ではズームなどのミーティングツールを使い、離れた相手と顔を見ながら会議を行うことができる。また、これらのツールによってプライベートも充実する。たとえば定年後の人なら、遠く離れて住む子どもや孫たちの顔を観ながら会話ができる。
コロナ禍がなかったら、おそらく動画サービスやミーティングツールの良さに気づかない人が多かったはずだ。
佐藤 優
