「AI時代に備えよ」——。その言葉を信じ、高額な自己投資として費用と時間を投じて猛勉強した人たちがいます。当然、彼らは輝かしい未来を確信していたはずです。しかしいま、彼らが学んだスキルそのものを、AIが猛スピードで代替しはじめています。本記事では、Aさんの事例とともにAI時代のスキルの陳腐化について、IT講師兼FPの川淵ゆかり氏が解説します。
AIに仕事を奪われた…都内名門私大卒、米国留学でITを猛勉強、年収2,000万円のはずが、現実は年収400万円の平凡会社員。「職を選べない」20代エリートの敗北 (※写真はイメージです/PIXTA)

新卒で入社した企業は、退職代行であっさり退職

会社経営者を父に持つAさんは、不自由のない家庭で育ちました。実家は郊外にある立派な一戸建て。少し前まで、両親と28歳の兄との4人暮らしでした。

 

真面目な兄は父親の会社を継ぐべくして頑張っている一方、Aさんはというと……。Aさんは、都内の名門私立大学を卒業後、卸売業の企業に就職しました。しかし、外回りが多く、メーカーや小売業とのコミュニケーションにも難しさを感じ、わずか3ヵ月で親にも内緒で“退職代行”を使って辞めてしまいます。

 

その後は部屋に引きこもってゲームをしたり、友達と遊びまわったりとフラフラしていましたが、そんな生活態度に父親が激怒し「真面目に働かないなら家を出ていけ!」と一喝。

 

「いまはまだ働きたくもないが、そのうち家を出たい」と考えていたAさんは、そんな折、ネットで“1年目から年収2,000万円”という海外で働くITエンジニアの話を知り、“IT留学”について調べました。

 

IT留学とは、「プログラミング」と「英語」の2つのスキルが身に付けられる留学形式のことです。プログラミングは就活の際、興味があって就職先の候補だった分野ということもあり、「いまさらだけれど、本気で挑戦してみようかな」と考えはじめます。帰国子女だったため、英語にはまずまずの自信があったAさんは、両親に数百万円におよぶIT留学の資金の工面を頼み込み、両親も「このまま遊んでいるよりかは……」と、留学を許可しました。

 

2020年度から英語とプログラミングは、小学校からの義務教育化が始まっており、2025年度からは大学入試に「情報」の科目が追加されています。「これからはこの2つのスキルがより重要視されるんだろうな。年収2,000万円稼いで、もう父には頼らない」と豪語したAさんは、意気揚々と飛び立っていきました。