「AI時代に備えよ」——。その言葉を信じ、高額な自己投資として費用と時間を投じて猛勉強した人たちがいます。当然、彼らは輝かしい未来を確信していたはずです。しかしいま、彼らが学んだスキルそのものを、AIが猛スピードで代替しはじめています。本記事では、Aさんの事例とともにAI時代のスキルの陳腐化について、IT講師兼FPの川淵ゆかり氏が解説します。
AIに仕事を奪われた…都内名門私大卒、米国留学でITを猛勉強、年収2,000万円のはずが、現実は年収400万円の平凡会社員。「職を選べない」20代エリートの敗北 (※写真はイメージです/PIXTA)

AI時代に、プログラマーが生き残る道

筆者は学生や社会人にプログラミングを教えて20年以上になりますが、生徒たちに「がっかりさせるようで悪いけれど実際の仕事ではプログラムを作る仕事はあまりないかもしれませんよ」と説明しています。新しい技術を次々に覚えなければいけない、と考える人もいるようですが、実際の仕事はそうでもありません。

 

日本は景気がよいとはいいがたい現状です。日本のIT現場では、大きなお金をかけてゼロから新しいシステムを作る仕事よりも、既存の古いシステム(レガシー技術)を修正・保守する作業が依然として多くあります。そのため、プログラマーには「プログラムを書く力」以上に、「他人が書いたプログラムを読む力」が求められてきました。

 

筆者は「他人が作ったプログラムを読めないといけない」「あなたが作ったプログラムは10年後にあなたの部下が修正するかもしれない。だから他人にみられても恥ずかしくない、読みやすいプログラムを作らないといけない」という教育をしています。今後は人間ではなく、AIが作ったプログラムを読み込み、正しいかどうかを判断できる力が必要な時代になりつつあるのです。

 

なかには、最新の技術トレンドに触れる機会が少なく、自身のスキルアップに不安を感じてしまうプログラマーも少なくないようです。

 

そういったジレンマに苦しみながらも、多くの日本企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、AIを活用しようとする企業は確実に増えています。AIの導入により、単に技術を開発するだけでなく、AIを効果的に活用し、新しいソリューションを設計・管理できる人材の需要が高まると予想されています。AIと共存し、AIを使いこなすスキルを持つ人間が高収入を得られる機会が与えられる時代になったのです。

 

「書く力」より「読む力」

筆者も、FPとしての自身の業務に必要な住宅ローンシミュレーションアプリをAIと“共同開発”した経験があります。複雑な金利計算(5年ルールや125%ルールなど)や繰上げ返済を盛り込んだロジックは、FPとしての専門知識(業務知識)があったからこそ実現できました。初めは自分ひとりでアルゴリズムを考えてプログラムを作りはじめましたが、知識がない部分やエラーが出て長時間悩んでしまうこともあったため、AIと共同開発することにしました。

 

AIは、正しいコードを作ってくれるほかに、「ここのボタンはこうしたほうがいい」「ここにはこういった機能が追加できる」といったアドバイスをくれます。AIは非常に優秀なアシスタントですが、AIにこちらの意思をどう伝えるか、といったスキルも重要です。実体験ですが、これからのプログラマーは、プログラミングスキルのほかに、AIへの指示であるプロンプト(指示文)を考え、AIを意図通りに動作させる「プロンプトエンジニア」のスキルも必要になると考えます。

 

「技術」×「業務知識」=AI時代の価値

筆者は受講生が作ったプログラムをチェックする場合、ヒューマンインターフェースを重要視します。つまり、ディスプレイやキーボードを使ったコンピュータと人間とのやりとりです。「どういうメッセージを出してあげたら使いやすいかな?」と常に考えてもらうようにしています。

 

そして、実際に実務としてシステム開発を行う場合、業務知識が求められる場合もあります。筆者がFPとして持っている住宅ローンの知識でプログラム開発をしたのと同じです。

 

正確で使いやすいシステムを作るには、使い手であり業務知識のあるユーザが直接開発してしまうのが一番なのではないでしょうか。スピーディでコストもかからないからです。AIが身近になり、プログラミングスキルが義務教育化された現在、数年後には「社内開発」が当たり前の時代がやってくると確信しています。

 

その場合、既存社員はどのようにして生き残るのか? 便利ですが、さらに厳しい時代がやってくると感じています。だからこそ、AIとともに“設計する力”を育てることが、これからの安心につながると私は信じています。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表