物価高と増税の波は、一見優雅な「勝ち組」シニアの生活さえも静かに蝕んでいます。立派な持ち家や十分な退職金がありながら、毎年の固定資産税や維持費に現金を奪われる「資産持ちの貧困」。資産があるがゆえに周囲に頼れず、ひっそりと社会から孤立していく――。本記事では、FPの川淵ゆかり氏のもとへ寄せられた相談事例をもとに、現代特有の老後リスクに迫ります。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
クリスマスイルミネーションが煌々と輝く豪邸だったのに…退職金計4,500万円の60代元国家公務員夫婦の家。玄関の奥は「風呂週1回・食事1日2回・ゴミまみれ」の限界生活と暗闇【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

名家の没落…外からみえない苦境

東京都区内の高級住宅地に佇む豪邸。そこに住むのは68歳のAさんと66歳の妻です。2人はかつて医薬系の国立研究機関に勤務していた元国家公務員の専門職技官で、職場結婚でした。この豪邸は、製薬会社を営んでいたAさんの祖父が建てたもので、諸般の事情により父親の代で事業を手放してからは、Aさんがこの地を受け継ぎました。その後しばらく父親は知人の会社に勤務するも、体調を崩して自宅で静養。闘病の末、10年ほど前に亡くなり、母親も続けて亡くしています。両親を見送ったあと、Aさんの30代の一人息子は海外勤務でなかなか帰ってこず、夫婦2人での生活が続いていました。

 

少し前まで、冬になるとAさん夫婦の家は、壁一面に見事なクリスマスイルミネーションが煌々と輝き、道行く人々を楽しませていたものです。古くとも立派な住居に優雅な暮らしをする2人の姿は、近隣住民にとって羨望の対象でした。

姿を消した家主

しかし、あの輝きが嘘のように、やがて2人の姿は地域から消えました。近所の人たちからも、ほとんど姿が目撃されなくなったのです。Aさんの妻が稀に食料品などの買い出しをする姿がみられましたが、Aさんのほうはめっきり姿を現さなくなりました。「ご夫婦で海外旅行にでも行っているのでは?」という人もいれば、あまりに気配がないため、不思議な噂を流す人も出てきました。

 

Aさん夫婦になにがあったのか?

研究機関を退職後、2人は社会との接点を断ち、家に閉じこもるようになっていました。特にAさんは、かつて息子が使っていた2階の部屋に籠城し、一日中ゲームや漫画に没頭する日々。

 

妻も最初のうちは声をかけていましたが、だんだんと面倒になってきて、会話が途絶えました。やがては食事の回数も減ってきて1日に1~2回になり、毎日の入浴すら億劫になっていきました。外観こそ立派ですが、一歩中に入れば掃除は行き届かず、ゴミが積み上がる惨状。夫婦そろって、生命や生活維持に必要な行為を行わない「セルフネグレクト(自己放棄)」の状態に陥っていたのです。