親が子につく嘘には、墓場まで持っていくべきものと、いつか話さなければならないものがあります。明日、娘が嫁に行く。そのタイミングで、母親がどうしても伝えておかなければならなかったこととは? ――それは、娘が信じてきた家族の歴史を根底から覆す、あまりに重い告白でした。※事例は、FPの川淵ゆかり氏のもとへ寄せられた過去の相続相談をプライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
ずっと何かがおかしいと思ってました…明日結婚する28歳女性、母から明かされた30年前の「我が家の秘密」。式翌日、父が「遺言」を作りに走ったワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

結婚前夜、明かされた秘密

Aさんは28歳の女性。明日、いよいよ自身の結婚式を控えています。ひとりっ子で、両親に大切に育てられてきました。現在は父が60歳、母が55歳です。

 

結婚式前日、実家で母親と2人きりになったときのことです。式の準備も整い、少し落ち着いた時間のなかで、Aさんはずっと胸につかえていた疑問を口にしました。

 

「ねえお母さん。式の準備をしてるあいだもずっと気になってたんだけど……お父さんとお母さんの結婚式の写真って、一枚もみたことないよね?」

 

これまでも何度か、「どんな式だったの?」と尋ねたことはありました。しかしその度、母は「昔のことだし」「忙しかったから」と曖昧に笑って話題を変えてきました。自分がその立場になり、どうしても気になっていたAさんは、最後にもう一度だけ聞いてみたかったのです。

 

すると、それまで笑顔だった母親の表情が、ふっと曇りました。母は少しのあいだためらったあと、静かに口を開きました。

 

「……ごめんね。ずっと、いえなかったの」

 

その真剣な眼差しに、Aさんは息を呑みます。

 

「明日お嫁に行くあなたに、どうしても話しておかなければいけない大事な話なの。今日まで黙っていてごめんなさい」

 

母親の話によると、母親の実家の反対で結婚式などは挙げずに結婚したとのこと。その理由として、衝撃の事実が告げられました。

 

「お父さんには学生時代に付き合っていた女性とのあいだにできた男の子がいて、認知しているのよ」

 

その言葉を聞いたとき、Aさんの脳裏には、過去の些細な違和感が蘇りました。実家に結婚式の写真が飾られていなかったことや、2人の馴れ初めを聞くといつも言葉を濁されていたこと……。

 

「……ずっと何かがおかしいと思ってた。だから、お母さんたちは自分たちの結婚式の話をしたがらなかったのね……」

 

「お父さんはなぜその女性と結婚しなかったの?」Aさんの問いに母親はこう答えます。

 

「お父さんは大学を卒業したら結婚するつもりだったけど、卒業間際にその女性は突然亡くなってしまったらしいの。子どもは認知していたけれど、その女性の両親が引き取って育てたそうよ。私も結婚前に話を聞いただけで、それから先のことはほとんど知らないの」

 

Aさんの父親は独身を通すつもりだったらしいのですが、Aさんの母親が好きになってアプローチし、熱愛の末、過去を承知で結婚したそうです。父親が30歳、母親が25歳のときでした。

 

10歳くらい年上となる異母兄の存在を知らされたAさん。「それで、その子はどうなったの?」と尋ねると、母親は首を横に振りました。

 

「まさか。養育費も大学卒業までは送っていたし、いまも居場所はわかっているらしいけど、そんなことは私も嫌だし、お父さんもそんな意向は持っていないでしょうよ。ただね。将来に問題が出てくるのよ」

 

母親はそういって、意味深げに話し出しました。