(※写真はイメージです/PIXTA)

実は賃金上昇率は1990年代前半と同程度まで高まっているにもかかわらず、消費者を取り巻く環境は好転していません。むしろ「物価は上がるばかりで生活は楽になっていない」と感じている人が大半なのではないでしょうか? 統計の数値と人々の体感とのズレはどこから生じるのか--。第一生命経済研究所経済調査部の主席エコノミストである藤代宏一氏の著書『株高不況』(青春出版社)より一部抜粋して紹介します。

食料品価格上昇の実態

そして何といっても注目は食料です。指数水準は124.2、そのうち野菜や魚など生鮮食品は134.0、生鮮食品以外の食料(米、精肉、加工食品)は122.5といずれも著しい上昇になっています。お米に限っては2025年3月の指数が200近くとなっており、目を疑うような水準になっています。

これら生活に不可欠な品目の値上がりは、テーマパークの入場料など裁量的な支出(高いと感じたら支出しないという選択ができる)と違って逃げ場のないものですから、消費者の体感的な物価を押し上げ、生活防衛意識を高めることにつながります。また外食は人件費の増加も重なって著しい上昇になっています。

ちなみに、日本銀行が政策目標としているのは消費者物価指数の前年比上昇率を2%とすることですが、政策判断にあたっては生鮮食品を除いたベースの消費者物価指数、いわゆるコアCPIを重視しています。

生鮮食品を除くのは野菜や果物、魚介類などは、天候要因など景気とは直接関係のない理由で大幅な変動をすることがあるからです。たとえば、酷暑で野菜価格が高騰し、消費者物価全体が上昇した場合など、それを景気の強さに起因するインフレであると誤認しないように注意する必要があります。

しかしながら、ここ数年の生鮮食品の上昇は、一過性の天候要因と言い切れない面があり、特殊要因として切り捨ててしまうのは議論の余地があります。

毎年のように酷暑、台風、大雨による農作物の被害が確認されており、もはや異常なものではなくなりつつあります。もしかすると、そもそもの生産能力が低下している可能性があるかもしれません。

また、これまでに累積した円安や人件費増加が関係している可能性も濃厚です。肥料や飼料などは輸入に頼っていますので円安の影響を受けます。電気・ガスといったエネルギー価格の負担増加も効いています。そして人件費の上昇も効いているはずです。生産者のみならず、流通や販売を担う輸送業、卸売業、小売業の人件費も増加していますので、その影響を受けないはずがありません。

そう考えると、仮に天候要因が一過性であったとしても、人件費が下がるとは考えにくいため、生鮮食品価格がコロナ禍以前の水準に戻る可能性は低いと判断されます。そのように感じている消費者も多いのではないでしょうか。

 

『株高不況』(青春出版社)より抜粋
『株高不況』(青春出版社)より抜粋

 

実際、日本銀行が調査している「生活意識に関するアンケート調査」によれば、消費者の予想物価上昇率は顕著に加速しています。5年後の物価上昇率は中央値で見れば比較的安定しているものの、平均値は明らかな上昇が認められています(図表3-3)。このようにして人々がインフレの定着・加速を予想し、将来の収支計画に組み込むことは非常に重要な意味を持ちます。

 

たとえば、企業においてはコストを先に予想し、それを前提に販売価格を決めることは少なくありません。仕入価格、人件費増加を前提に自社製品・サービスの価格を決定するなら、企業はコスト増に負けない価格を設定するはずです。こうしてインフレがインフレを呼ぶことになります。

 

藤代宏一

エコノミスト

 

 

 

※本連載は、藤代宏一氏による著書『株高不況』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

株高不況

株高不況

藤代 宏一

青春出版社

コロナ収束以降、日経平均株価は3~4万円台と高値をキープし、一時、バブル期に記録した最高値も更新した。2025年になってトランプ関税に振り回されつつも、しっかり持ち直してもいる。その一方で、足元の物価高もあって、庶民…

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