ヘッドハンティングにおいて、最も難しいとされるものの一つが、「医師(ドクター)」を対象とした案件だといいます。 今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏がドクターの人材マーケットの特徴とその特殊性について解説します。
高額報酬なのに「数年間応募者ゼロ」…ヘッドハンティングのプロが語る「医師不足」に喘ぐ病院の実情 (※写真はイメージです/PIXTA)

人材紹介会社が考える「魅力的な医療機関」とは?

医師不足に喘ぐ地方の官公立病院は、ドクターへの報酬が税金から補填されており、首都圏の病院に比べ、2倍以上の提示があるケースも見られます。しかし医師不足が加速する地方病院では、一人のドクターへの負担が大きくなっている働き方が敬遠され、いかに報酬金額を詰み上げようとも、「数年間応募がゼロ」というのも珍しくないようです。

 

そこでドクターのスカウトにおけるメソッドの一つとして、私は次のような考え方を持っています。それは「ドクターが働きたくなる、魅力を感じる組織でなければ、仕事を請けない」というものです。

 

人材エージェントとしては矛盾しているかもしれませんが、たとえば臨床経験が豊富であったり、学問的業績があったり、人間性が優れたドクターというのは、昨今文字通り引く手あまたであり、人材市場に出てくることはあまりありません。

 

その一方で、医師としての経験は豊富ながら、どこか人間性にクセがあるのか、短期間の転職を繰り返しているドクターもいます。それでも基本的に医師不足ですから、すぐどこかに雇用されるわけですが、やはり同様の問題を繰り返してしまいます。このあたりは民間企業と同じです。

 

ドクターは一般企業と比べ、お金や経験という要素だけでは簡単に動かないという特殊性があります。また、非常に多忙な先生方が多く、ゆっくり話を聞いてもらえる場面もありません。そのため、「医師が足りないから来てほしい」という募集、特に、先に述べたような不足感の強いドクターの採用を成功裡に導くことはほぼ不可能といえます。

 

噂が瞬く間に拡散するドクター業界のなかでも、多くのドクターに「この医療機関は魅力的だ」と思ってもらえるような医療機関でなければ、人材獲得を成功させることは極めて難しいと言えるでしょう。

 

「魅力的な医療機関」について、具体的には、このような要素が挙げられます。

 

①診療方針やホスピスの運営が非常に進歩的である、どのような患者も拒絶しないなど独自の哲学を持っている

②潤沢な資金を持ち、最新鋭の医療設備・機器を導入している

③特定の領域を中心に有名な医療チームや高い実績を誇る

 

このように、ドクターを惹きつける魅力がはっきりしていなければ、医療機関が誰もが認める優秀なドクターを迎えるのは容易ではありません。逆に、魅力ある医療機関には優秀なドクターが集まり、その結果さらに発展して陣容を強化していくことが期待できます。


慢性的な医師不足に悩み、なかなかドクターから選ばれない医療機関は、ますます人材難という悪循環に陥ってしまいます。今後、医療機関の優劣はより鮮明になっていくでしょう。そうした変化の中でこそ、ドクターのエグゼクティブサーチ(専門性の高い人材を探し出す仕組み)の重要性に目を向けていく必要があるのです。

 

 

 

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長