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「TOEIC880点」のはずが…実際にはほとんど話せず解雇に
人材探しにおいて英語力の確認は欠かせず、私もこの問題には神経を使ってきました。しかしそれでも、いくつかの苦い失敗を経験しています。代表的な事例をひとつご紹介しましょう。
強く印象に残っているのは、北欧にある機械部品メーカーの工場長後任を探す案件です。日系企業が北欧に工場を持ち、現工場長が急病で退職したため、すぐに現地赴任できる人材を探す必要がありました。工場の従業員は全員現地採用で、英語が必須。北欧では英語が一般的に通じるため、当然の前提でした。
ただし、急病による交代でクライアントも採用を急いでおり、面接は非常に慌ただしく進められました。ある候補者が提示してきたのはTOEIC880点のスコア。一般的に800点台は日常生活やビジネス上のコミュニケーションに十分なレベルとされており、証明書もあったため英語力は問題なしと判断されました。本人も「英語はまったく問題ありません」と胸を張っていたのです。
こうして英語面接は省略され、採用は本社主導で進められました。ところが北欧赴任後、実際には英語がほとんど話せないことが判明。結果、就任からわずか1ヵ月で解雇となってしまいました。
英語力を求められる転職では「抜き打ちテスト」の対策も
英語力の確認は、「性善説」で信じるか、「性悪説」で疑うか、非常に微妙な判断を迫られる領域です。しかし実際にはトラブルのもとになることが多く、軽視できません。当社では最近、独自のチェックを導入しました。
具体的には、候補者面談の際に事前通告せず抜き打ちで英語インタビューを行います。面談は1時間とし、最初の30分は通常どおり日本語で進めます。雑談も含めて完全に日本語です。そして30分が経過したところで、「ここからは英語でやりとりをさせていただきます」と英語で告げ、そのまま残りの時間を英語だけで対応してもらうのです。事前に予告してしまうと準備ができてしまいますが、抜き打ちで切り替えることで、本当の慣れ具合や対応力が浮き彫りになります。
この方法はクライアント企業にも推奨しています。決して意地悪ではなく、むしろ実務に即した確認です。日系企業でも英語が業務必須であれば、面接の一部を英語に切り替えることを強くおすすめしています。
TOEICはリーディング、リスニング、文法力を測る試験であり、スピーキング能力とはまったく別物です。ビジネス文書の読み書きだけで事足りる職務なら問題ありませんが、顧客や現地スタッフとスムーズにコミュニケーションを取る必要があるならば、抜き打ちでの英語面接は非常に有効です。
見方を変えれば、英語が必須となる転職を目指す人にとっては、こうした「抜き打ちテスト」に備えること自体が、英語力を効果的にアピールする手段になります。準備を怠らず、自分の強みとして示せれば、採用の場で大きなプラスに働くでしょう。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長