▼夕刻、王宮
家臣「申し上げます! 港町銀行の者たちが到着しました」
財務大臣「報告ご苦労。では国王陛下をお呼びするとしよう」
家臣「いえ、それが……。すでに謁見の間に向かわれたとのことです」
財務大臣「何? まったく、どいつもこいつも私を差し置いて……」
家臣「もしや陛下は、嘆願を聞き入れるおつもりなのでしょうか」
財務大臣「そのようだ。名君たるもの民意に耳を傾けるべきだと、内務大臣に入れ知恵されたらしい。衆愚に振り回されては国を傾けるとご忠告したのだが、無駄だった。反抗期かもしれんな、あれは」
家臣「反抗期」
財務大臣「もう少し素直に育ってもらいたいものだ」
家臣「では、仲介業者の件はいかがですか?」
財務大臣「そちらについては、すでに手は打ってある」
家臣「どの銀行を仲介業者に選ぶか……最終的な決定権は精霊教会の代表者が握っていると存じますが」
財務大臣「その通りだ。港町銀行に応募を取り下げさせるか、もしくは──」
家臣「もしくは?」
財務大臣「何かしらの醜聞を見つけて、信頼を傷つけてやればいい。手はいくらでもある」
家臣「なるほど」
財務大臣「もとより、私は帝都銀行を推薦しているのだ。まかり間違っても、港町銀行が仲介業者に選ばれることはありえんよ。ふふふ……」
▼謁見の間
ショタ王「遅いぞ! ぼくは宿題をがんばって終わらせてきたんだぞ? このぼくを待たせるとは……」
財務大臣「どうかご容赦ください。ところで、あそこでひざまずいているのが?」
ショタ王「ああ、港町銀行の代理人だ。……顔を上げて名を名乗れ!」
衛兵「おもてをあげよ!」
女騎士「私はシルヴィア・ワールシュタット。国王陛下と拝謁する栄誉にあずかり、恐悦至極に存じます」
ショタ王「ふむ、ワールシュタット家か……。どこかで聞いたことがある名だ」
財務大臣(現在は人間国に併合された『波国』の名家でございます。……偽名でなければ、ですが)ボソッ
ショタ王「そうか、思い出したぞ。ワールシュタット家といえば、新大陸への入植初期に渡った五大貴族の1つだな?」
女騎士「さようでございます」
ショタ王「たしか、『副都の悲劇』で……」
女騎士「……はい、私を残して一族は滅びました」
ショタ王「そうか、悪いことを訊いた。……それで、もう1人のほうは?」
黒エルフ「あたしはルカ・ファン・ローデンスタイン。影国の商家の出身よ。わけあって港町銀行に雇われているわ」
財務大臣「貴様、陛下に向かってその口のきき方は何だ!」
ショタ王「よい。影国の生まれであれば、この国の言葉に不慣れなのだろう。……ふむ。その肌は生まれつきなのだな? まるでコーヒーを塗ったような色だ。できれば洗い流すところを見せてほしいが……」
黒エルフ「お断りするわ。ダークエルフを見たことがないの?」
ショタ王「かつて影国を創った誇り高き種族だと教わった。だが、最近では数が減ってしまったと聞く」
黒エルフ「ええ。今では影国の住民の大半は、あなたたちと同じ人類よ」
ショタ王「何にせよ、2人ともよくぞ帝都に参じてくれた。ぼくはフェリペ・ロペス・デ・レガスピ! 卑賤なる魔族を討ち滅ぼし……えっと……」
財務大臣(この世界の王となる)ボソッ
ショタ王「……こ、この世界の王となるべき者だ!」
女騎士・黒エルフ ハハーッ
ショタ王「諸君らの嘆願書、読ませてもらったぞ」
ぴらっ
ショタ王「港町は人間国の貿易の要。町を栄えさせるためには、貿易商たちにカネを融通する必要があり、国債購入の余裕はない……という内容だな」
黒エルフ「ええ。言われた額の半分までしか、あたしたちはカネを貸せないわ」
財務大臣「この国難のときに身勝手な……」
ショタ王「よし、1割だ」
財務大臣・黒エルフ「「ええっ」」
ショタ王「事前にぼくたちが勧告した額の1割でいい。お金を貸してくれ」
黒エルフ・女騎士 ぽかん……
ショタ王「どうした、不満か?」
黒エルフ「い、いえ……不満はないけど……」
財務大臣「陛下! どうかお考え直しください!」
ショタ王「なぜだ?」
財務大臣「戦艦の建造や改修が今後本格化します!」
ショタ王「海軍元帥から聞いたよ。シーサーペントの対策に、新型の大砲を調達するそうだな」
財務大臣「それだけではありません! 動員する兵士の給料、武器、兵站……カネはいくらあっても足りないのですよ?」
ショタ王「だけどぼくはもう決めた。そして、あの者たちは不満はないと言った。ぼくが決めた提案に、あの者たちは同意したのだ。これで契約成立だろう」
財務大臣「しかし──!」
ショタ王「ぼくが誰かと交わした約束を勝手にくつがえす……そんな権限はお前にはないはずだぞ、大臣」
財務大臣「お、おっしゃるとおりです……」
▼宮廷、正門
衛兵「こ、困ります! どうかお引き取りくださいませ!」
???「まあ! そんなことおっしゃらないでくださいな」
衛兵「国王陛下は、ただいま謁見に応じておいでです!」
???「あらあら、うふふ……。それならちょうどいいですわぁ」
衛兵「ああっ! お、お待ちください──」