ノベル版『女騎士、経理になる。』~第2章その⑬

原作:Rootport
イラスト:こちも
提供:デンシバーズ
ノベル版『女騎士、経理になる。』~第2章その⑬

幻冬舎コミックス運営のWEBマンガ雑誌「デンシバーズ」と幻冬舎ゴールドオンラインによる特別コラボ企画。デンシバーズの好評連載『女騎士、経理になる。』の原作小説で、2016年6月24日に発売された単行本『女騎士、経理になる。①鋳造された自由』のプロローグと第1章、第2章、第3章を無料公開します。今回は第2章「ガバメント・オブリゲーション」その⑬です。

▼謁見の間

 

女騎士「……ご恩情に感謝いたします」
黒エルフ「嘆願書はもう一通あるはずだけど?」

 

ショタ王「精霊教会の仲介業者の件だな。応募は受け付けた。どの銀行に仲介を依頼するかは、精霊教会の側で決めることだ」

 

財務大臣「だが、応募を辞退するべきだな」
ショタ王「……大臣?」

 

女騎士「応募を辞退……ですか?」
黒エルフ「するわけないでしょう、そんなこと!」

 

財務大臣「黙れ、厚顔無恥な女狐め!」
ショタ王「大臣! いくら相手が女だからといって言葉がすぎるぞ」

 

財務大臣「考えてもみてください、陛下。この者たちは国債の減額をねだってきたのですよ? 魔国の存在は人類の脅威。もしも人間国が負ければ、私たちは魔族の奴隷として使い潰されるでしょう」

 

黒エルフ「……」

 

財務大臣「惨めな末路を避けるためなら、無償でも戦争に協力すべきです。にもかかわらず、この者たちは充分なカネを貸すこともできないと言うではありませんか。貸すカネも充分に持たないこの者たちに、精霊教会との取引を仲介するという重責が負えますでしょうか?」

 

ショタ王「言われてみれば、たしかに……」

 

財務大臣「彼女らを精霊教会の代表者に引き合わせてしまったら、陛下の名声にも傷がつくやもしれません。人を見る目がない、という傷が」

 

ショタ王「ぼくは王さまだぞ! このぼくの人を見る目を疑うつもりか!」

 

財務大臣「陛下の眼識は存じております。ただ、下らない悪評が立つのを防ぎたいのです」

 

黒エルフ「……なによ。応募するのもしないのも、あたしたちの勝手でしょ?」

 

財務大臣「ふんっ、呆れるほどの欲深さだな」

黒エルフ「欲深い、ですって…?」

 

財務大臣「さよう。お前たちには戦争の勝利に貢献したいという気持ちも、精霊教会に尽くしたいという真心も無いではないか。ただ、仲介手数料が欲しいだけであろう」

 

女騎士「そ、そんなことは……」
財務大臣「言いつくろおうとしても無駄だ、利己主義者め!」

 

黒エルフ「ええ。たしかにあたしは欲深い利己主義者よ」
女騎士「お、おいっ」

 

財務大臣「ふふふ……認めおったか。ならば応募の辞退を──」
黒エルフ「だけど、欲深さは悪なの? 欲を持つことは、そんなに悪いこと?」

 

財務大臣「何ぃ……?」
ショタ王「おもしろい、続きを聞かせろ」

 

黒エルフ「たとえば大臣さま、あなたはずいぶん高そうな衣服を召しているわね」

 

財務大臣「フンッ、お前にそんな審美眼があるとはな。華国より取り寄せた最高級のシルクを使っておる」

 

黒エルフ「いい服を着たい……。これは誰もが抱く欲求だわ。大臣さまも例外ではなかった」

 

財務大臣「何が言いたい」

 

黒エルフ「大臣さまは、いい服を着たいという欲を持った。仕立て屋は、服を売ってカネを得たいという欲を持った。だからこそ、衣服の売買という取引が成立した」

 

ショタ王「!」

 

黒エルフ「商売の本質は、お互いの欲を満たしあうことよ。あたしたちが欲深いからこそ、この世界は豊かになるのよ」

 

女騎士「仕立て屋だけではなかろう」

 

黒エルフ「そうね。大臣さまの支払ったカネで、荷物を運んだ水夫たちや、布を織った女たち、糸を紡いだ華国の子供たちまでもが潤ったはず。いい服を着たいという、たった1つの欲を満たすだけで、他のたくさんの人の欲を満たすことができた」

 

財務大臣「ど、どこまで人を愚弄すれば気が済むのだ! 黙って聞いておれば……私が欲深いと言うのか!?」

 

黒エルフ「違うの?」
財務大臣「国庫の番人たる財務大臣の立場は、無私無欲でなければ勤まらん!」

 

黒エルフ「立派な心がけね。お召しになった衣装と同じくらい立派だわ」
財務大臣「なんだとぉ!」

 

黒エルフ「無私無欲な大臣さまは、その立派なお召し物を買うカネを、どうやって工面したのかしら?」

 

財務大臣「な……!?」
黒エルフ「さぞかし色々なお仕事をなさってカネを稼いだのでしょうね」

 

ショタ王「あはは、大臣は由緒正しい貴族だよ。お金ならあるんだよ」
財務大臣「~~~~ッ!!」

 

ショタ王「どうしたの、大臣? 顔が真っ赤だけど」

 

財務大臣「と、とにかく……。この者たちが私利私欲のために仲介業者に応募したことはハッキリしました」

 

ショタ王「うん。じつに興味深い話だった」

 

財務大臣「というわけで話は終わりだ! 私たち政府が港町銀行を推薦することはありえない!」

 

女騎士「そんな……」
黒エルフ「なら、どこの銀行を?」

 

財務大臣「ふんっ、教えてやる義理はないが……仲介業者には帝都銀行が選ばれるはずだ」

 

黒エルフ「帝都銀行……」
女騎士「うちの何倍も規模が大きい銀行だな」

 

財務大臣「ふふふ、お前たちでは太刀打ちできまい。恥をかきたくなければ、応募を取り下げるのだな。今なら無礼な発言も許してやろう」

 

???「あらあら~、応募を取り下げられたら困りますわぁ」

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