▼理髪外科医院、2階
理髪師「んも~っ、2人して何をお喋りしてたの?」
黒エルフ「た、大したことじゃないわ。さあ、始めてくれる?」
理髪師「は~い♪ 帝都で一番の美人さんに仕上げてあげるわぁ」
黒エルフ「え、ええ……楽しみだわ……」
黒エルフ(……うーん、悪い人には見えないけど……)
理髪師「んん~」マジマジ
黒エルフ「?」
理髪師「ちょっと失礼」ふにっ
黒エルフ「きゃあ!? どこ触ってんのよ!」
理髪師「もう少しボリュームがあったほうがいいわね~~」ふにふに
黒エルフ「ひゃぁああ!?」
理髪師「こう見えてアタシは外科医よ。膨らませることもできるけど、どうする?」
黒エルフ「余計なお世話よッ!」
理髪師「えー、そうかしらぁ~?」
黒エルフ「か、髪だけをお願いするわ!」
理髪師「うふふ、ごめんなさいねぇ。じゃあ、これをかぶってくれる?」
黒エルフ「これは……頭のてっぺんに穴を空けた麦わら帽子?」
理髪師「髪染めの秘薬は希少すぎて使えないでしょ? だから、太陽の光を利用するのよぉ」
黒エルフ「お日様の光で、髪を日焼けさせるってこと?」
理髪師「そういうこと。この帽子の頭頂部から髪を出して、ひさしの上に広げてちょうだい。キレイな色に焼けるわよぉ~?」
黒エルフ「ふぅん……。これでいい?」
理髪師「ええ、完璧!」
黒エルフ「日光を使うから2階のテラスだったのね。でも、なんだか毛が傷みそうね」
理髪師「心配ないわ!」
ちゃぷ……
理髪師「この化粧水で髪を常に濡らしておけば、日光のダメージを抑えられるの」
黒エルフ「きゃっ、冷たい! 何かの薬草の香りがするわ」
理髪師「カモミールよ。日光で髪を染めるときは、カモミールのエキスを混ぜた化粧水を使うの。もっとも、うちは秘伝のレシピで作っているけど」
黒エルフ「秘伝のレシピ」
理髪師「ええ。詳しい製法は秘密だけど、カモミールエキスのほかに大麦のわらと亀の血を加えて……」
ちゃぷちゃぷ……
黒エルフ「!?」
理髪師「さらに美肌効果のあるウグイスのふんと、生き物を燃やした灰を混ぜて──」
黒エルフ「ま、待って!」
理髪師「?」
黒エルフ「た、たしかに亀の血は……華国ではお薬に使うと聞いたことがあるわ。それに、和国の女性はウグイスのふんを化粧に使うらしいわね」
理髪師「あら、よく知ってるわねぇ」
黒エルフ「じゃあ、生き物を焼いた灰というのは……?」
理髪師「オタマジャクシよ」
黒エルフ ギャー!!
▼商業区
工房長「……何でしょう、今の悲鳴」
老練工房「ったく、ヤダねえ。近ごろは治安が悪くて」
(※結局、髪は染めませんでした)