(※写真はイメージです/PIXTA)

バルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)は、いずれもEUとNATOに加盟し、旧ソ連から独立後は独自の路線を歩んできました。近年はロシアの動向を受けて緊張が続く一方、税制や経済政策においてはユニークな仕組みを導入し、国際的にも注目を集めています。本稿では、三国の基本情報と税制の特徴について概観します。

バルト三国の概要

バルト三国とは、リトアニア、エストニア、ラトビアの3ヵ国を指します。共通点として、いずれもEU加盟国であり、また北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあります。

 

さらに、スターリン時代にソ連へ併合された歴史を持ち、ソ連崩壊後はCIS(独立国家共同体)に加わらず、日本との租税条約においても、ソ連時代の条約適用を拒否し、それぞれが日本と独自の租税条約を締結しました。

 

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、3ヵ国とロシアとの関係は緊張状態が続いています。2025年8月5日には、リトアニアのブドリース外相が、7月にベラルーシ方面からリトアニア領内へ軍用ドローン(無人機)2機が侵入したとして、NATOに支援を要請しました。

(1)リトアニアの概要

リトアニアの人口は約288万人(2023年)。法人税率は16%、所得税の最高税率は32%、VAT(付加価値税)の税率は21%です。第二次世界大戦中、ユダヤ系の人々に「命のビザ」を発給した杉原千畝氏の功績で広く知られています。

 

(2)ラトビアの概要

ラトビアの人口は約188万人(2023年)。法人税率は20%で、経済特区などへの投資に対しては法人所得の80%が減免されます。所得税の最高税率は21%です。

 

(3)エストニアの概要

エストニアの人口は約137万人(2024年)。法人税率22%、所得税の最高税率22%、VATの税率22%と統一感のある税制を採用しています。

 

(4)ロシアの飛び地

リトアニアとポーランドに隣接するロシアの飛び地がカリーニングラードです。バルト海に面した軍港を有し、経済特区も設置されており、ロシアにとって戦略的に重要な地域です。ただし、ロシア本土と地続きではないため、今後のウクライナ情勢と連動し、微妙な立場に置かれています。

独自の税制を採用するラトビアとエストニア

バルト三国は1940年に旧ソ連に併合されましたが、旧ソ連崩壊時には他のソ連構成国とは異なり、独自路線を選択して独立しました。

 

エストニアと日本との貿易関係を見ると、エストニアから日本への輸出は7,965万ドル(木材・ログハウス、機械類、乳製品、サーディン缶詰など)、日本からの輸入は2,584万ドル(機械類、自動車・部品など)となっています。

 

エストニアの法人税制は特徴的で、居住法人・非居住法人を問わず、所得やキャピタルゲインには課税されません。課税は配当などとして社外に流出する時点で行われ、その金額に対して22%が課されます。なお、経常的な配当については10%の税率が適用されます。つまり、内部留保を続ける限り課税を受けない仕組みといえます。

 

ラトビアの法人税制も同様に、利益が社外に流出する時点で課税されます。発想としては「支出税」に近いものですが、同様の法人税制を採用している国はほとんど存在しません。

 

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員

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