▼一刻後
女騎士「これが……///」ぽわわ
黒エルフ「あたし……?///」ぽけー
理髪師「うふふ、気に入ってもらえたようで嬉しいわぁ~」
下女「……ご、ご主人様ぁ……。どうしましょう……」
理髪師「あらヤダ、顔が真っ青よ?」
下女「ち、帳簿をつけていたのですが……げ、現金の残高が合わなくて……」
黒エルフ「記入漏れでもあるんじゃない?」
女騎士「よし、私が見てやろう」
理髪師「ええーっ、お客さまにそんなことさせられないわ!」
女騎士「安心しろ! こう見えて、私たちは港町の銀行で働いているのだ。帳簿のつけ方なら少しは分かる」
理髪師「で、でもぉ~」
黒エルフ「しかたないわね、あたしも手伝うわ」
下女「ご、ご主人様さえよければ、……アタシは、た、助かります……」
理髪師「うーん、どうしましょお~……。それじゃ、女騎士さんには帳簿の確認を手伝ってもらおうかしら?」
女騎士「うむ。よろこんで力になろう」
理髪師「でも、そっちのダークエルフさんはダメよ!」
黒エルフ「はぁ? どうしてよ」ムスッ
理髪師「だって、まだ施術が終わってないもの~☆」
黒エルフ「?」
理髪師「ねえ、髪の色を変えてみない?」
黒エルフ「色を?」
理髪師「今の銀髪もステキだけど、最新の流行は柔らかいオレンジ系ね。きっとよく似合うわよ~」
黒エルフ「そ、そうかしら///」
理髪師「お願い! タダでもいいからあなたの髪を染めさせて!」
黒エルフ「タダ!! ……そ、そこまで言うなら、しかたないわね……髪の色を変えてみようかしら///」
理髪師「きゃーっ! 嬉しい! 染髪は2階のテラスで施術するわ!」
黒エルフ「2階のテラス?」
理髪師「すぐそこの階段を上ったところよ。足もとに気をつけてねぇ~」
黒エルフ「分かったわ///」
女騎士(…待て)ボソッ
黒エルフ(何よ、怖い顔して)ボソッ
女騎士(あの理髪師と2人きりになるのは……えっと、その……危険かもしれない)
黒エルフ(はぁ? 言動は突飛だけど、腕はたしかでしょう)
女騎士(うむ。カットの腕はたしかだった。だが、やはり怪しい)
黒エルフ(?)
女騎士(まず、あのハサミだが……かなりの魔力がなければ扱えないマジックアイテムだ。なぜ、こんな小さな理髪外科医院の男が使っているのだ?)
黒エルフ(お師匠さまから譲り受けたんじゃないの? 魔国出身だとかいう)
女騎士(それだけではない。あの下女も怪しいぞ。彼女の手を見たか?)
黒エルフ(女中さんの手……?)
女騎士(ささくれの1つもない綺麗な指をしていた)
黒エルフ(言われてみればたしかに。……でも、それが?)
女騎士(あの下女は、北部の農村の出身だと言ったな)
黒エルフ(!)
女騎士(農村で生まれ育ったにしては、手が綺麗すぎるとは思わないか?)
理髪師「ダークエルフさ~ん、準備ができたわよぉ~」
黒エルフ「は、はーい! すぐ行くわ」
黒エルフ(……やっぱり、ちょっと気にしすぎじゃない?)
女騎士(私もそうであってほしいと思う。だから、止めはしない。しかし、用心だけは怠るな)
黒エルフ(用心と言ったって……)
女騎士(先ほど買い物中も視線を感じた。おそらく尾行だ。この街にいるのは私たちの味方ばかりではない)
黒エルフ(あたしたちを邪魔しようとしているヤツがいる……ってこと?)
女騎士(そうだ。相手が何者なのかは、まだ分からない。だが、私たちの命を狙っている可能性もある)
黒エルフ(そんな大袈裟な……)
女騎士(大袈裟かもしれない。しかし備えあれば憂いなしだ。つねに最悪の事態を想定しておいたほうがいい)
黒エルフ(……)
女騎士(たくさんのカネが流れる場所には、血も流れるものだ)
黒エルフ(……分かった。血なまぐさいことに関しては、あんたのカンを信じるわ)