東京の異常な家賃の高さに嫌気がさし、地方移住を決意する人は少なくありません。月収28万円の32歳男性もその一人。地元での安い家賃に惹かれUターンした彼を待っていたのは、思い描いていたような余裕のある生活ではありませんでした。「家賃さえ安ければ生活は楽になる」という思い込み。その致命的な勘違いの先にあった後悔の念に迫ります。
愚かでした…〈月収28万円〉32歳サラリーマン、東京のバカ高い家賃から逃げて地元に帰った男が嘆く「たった1つの致命的な勘違い」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「こんなはずじゃ…」地方暮らしで露呈した致命的な勘違い

地元での新生活は快適そのもの。満員電車とは無縁の通勤、安い家賃で広い住まい――しかし、佐藤さんが思い描いていた「余裕のある生活」が訪れることはありませんでした。すぐに、地方暮らしにおける「致命的な勘違い」に気づかされたのです。

 

「家賃さえ安ければ、生活は楽になる。本気でそう思い込んでいました。でも、それは大きな間違いでした。家賃以外の生活費は、東京とほとんど変わらないですね。いや、水道代とか、モノによっては地元のほうが高いことも珍しくありません」

 

スーパーに並ぶ食料品の価格は、都内の激安スーパーと大差ありません。確かに地元産の生鮮食品は都内よりも安いものの、物流コストがかかる分、一部の商品は割高です。光熱費も、プロパンガスエリアだったため、都市ガスの東京時代より高くなっていました

 

そして、最大の誤算が「車」の存在。東京にいた頃は、移動はすべて公共交通機関。定期代以外に交通費がかかることはほとんどなかったといいます。地元で暮らしているのは会社まで徒歩圏内の賃貸マンションなので、平日は基本的に車を使うことはありません。しかし、最寄りのスーパーまでは徒歩15分であるものの、品揃えが豊富な大型の商業施設は駅から数キロ離れた郊外にあります。休日に友人と会うにも、それぞれの家の中間地点にあるファミリーレストランに車で集まるのが当たり前。車がなければ、行動範囲が極端に制限されてしまうのが地方の現実でした。

 

佐藤さんの場合、車をローンで購入。自動車保険、ガソリン代、そして税金や車検代……維持費まで考えると、家賃が安くなった分が相殺されてしまう。結局、給与から差し引いて手元に残るお金は、東京にいた頃と何ら変わらないといいます。

 

「本当、愚かですね。東京は物価が高いと、よく言われていることを鵜呑みにして、地方で暮らすためのトータルコストをまったく考えなかった。地元に帰ってきて良かったのか……よくわからなくなっています」

 

佐藤さんがUターンを後悔する理由は、今後のキャリアにもあります。東京と地方では、それほど生活費は変わらない。一方、今後、給与面では東京にいたほうがメリットは大きかっただろう、という現実です。

 

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、会社員(男性)の給与は、全国平均、月収で36万3,100円、年収で590万8,100円。東京都に限ると、月収は44万0,800円、年収は713万4,200円です。一方、たとえば東北地方の宮城県は、月収で33万1,500円、年収で537万5,800円。平均給与には大きな差があることがわかります。

 

東京時代と変わらない給与での転職を叶えたとしても、今後、東京にいたほうが多くの給与を得られる可能性が高いといえるでしょう。

 

一方で、支出面はどうでしょうか。総務省統計局『家計調査(家計収支編)単身世帯』を都市階級別に見ると、住居費はやはり人口5万人未満の市町村に比べ、大都市(東京都区部など)が突出して高くなっています。

 

しかし、「食料」や「光熱・水道」といった基本的な生活費には、都市規模による決定的な差は見られません。そして、地方に行くほど支出の割合が高まるのが「交通・通信」であり、その多くは自動車関連費が占めています。

 

佐藤さんのケースのように、家賃の減少分が自動車関連費で相殺され、さらに今後の給与上昇の可能性を加味したら、Uターンを後悔するのは仕方がないことかもしれません。同じように東京から地方へと検討する際は、家賃という一点だけでなく、自身のキャリアプランに伴う収入の変動、そしてその土地で生活するために必須となるコストを総合的に算出し、慎重に判断する必要があるのです。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

総務省統計局『家計調査(家計収支編)単身世帯』