自宅に住み続けながら、年金にプラスして生活資金が手に入る――。「リバースモーゲージ」は、持ち家はあるものの現金収入が少ない多くの高齢者にとって、非常に魅力的な制度に映るだろう。しかしその裏には、人生の最終盤で自宅を失いかねない深刻な落とし穴が。実情をみていく。
リバースモーゲージなんてやらなきゃよかった…月7万円の年金で暮らす69歳女性、“夢の制度”利用で破滅。人生の最後に「法廷闘争」、自宅を失うか否かの瀬戸際 (※写真はイメージです/PIXTA)

長生きという「誤算」

契約から15年が経ち、康子さんは84歳になった。同世代の友人を次々と見送るなか、幸いにも大きな病気もせず、元気に暮らしていた。しかし、この「予想外の長生き」が、彼女の老後を根底から覆すことになる。

 

ある日、銀行から一通の封書が届いた。「融資極度額到達のお知らせ」。毎月10万円ずつ借り入れていた融資額の合計が、ついに上限の1,800万円に達してしまったのだ。融資は停止され、同時に利息の支払いを求める督促状が届きはじめた。

 

慌てて銀行に駆け込むと、担当者の口調は昔の優しさとは程遠い、事務的なものに変わっていた。

 

「神田様、契約は契約です。これ以上の融資はできません。今後は利息分をお支払いいただくか、ご自宅を任意売却して一括返済していただくことになります」

 

年金7万円の生活に戻った康子さんに、利息を払い続ける余裕などない。売却を拒否し続けると、ついに銀行は法的手段に乗り出し、自宅の競売を申し立てた。康子さんの手元に届いたのは、裁判所からの「担保不動産競売開始決定」通知だった。

 

「話が違うじゃないですか…! 住み続けられるっていったじゃないですか!」

 

康子さんの悲痛な叫びも、分厚い契約書の前では無力だった。法廷で争うことになった彼女は、弁護士の事務所でこれまでの経緯を語り、涙ながらにこう呟いた。

 

「リバースモーゲージなんてやらなきゃよかった……」

 

夫との思い出が詰まった我が家から、人生の最終盤で追い出されるかもしれない。その恐怖と絶望が、康子さんの心を押し潰していた。