(※写真はイメージです/PIXTA)
長生きという「誤算」
契約から15年が経ち、康子さんは84歳になった。同世代の友人を次々と見送るなか、幸いにも大きな病気もせず、元気に暮らしていた。しかし、この「予想外の長生き」が、彼女の老後を根底から覆すことになる。
ある日、銀行から一通の封書が届いた。「融資極度額到達のお知らせ」。毎月10万円ずつ借り入れていた融資額の合計が、ついに上限の1,800万円に達してしまったのだ。融資は停止され、同時に利息の支払いを求める督促状が届きはじめた。
慌てて銀行に駆け込むと、担当者の口調は昔の優しさとは程遠い、事務的なものに変わっていた。
「神田様、契約は契約です。これ以上の融資はできません。今後は利息分をお支払いいただくか、ご自宅を任意売却して一括返済していただくことになります」
年金7万円の生活に戻った康子さんに、利息を払い続ける余裕などない。売却を拒否し続けると、ついに銀行は法的手段に乗り出し、自宅の競売を申し立てた。康子さんの手元に届いたのは、裁判所からの「担保不動産競売開始決定」通知だった。
「話が違うじゃないですか…! 住み続けられるっていったじゃないですか!」
康子さんの悲痛な叫びも、分厚い契約書の前では無力だった。法廷で争うことになった彼女は、弁護士の事務所でこれまでの経緯を語り、涙ながらにこう呟いた。
「リバースモーゲージなんてやらなきゃよかった……」
夫との思い出が詰まった我が家から、人生の最終盤で追い出されるかもしれない。その恐怖と絶望が、康子さんの心を押し潰していた。