時には市場の「思い込み」による急変動も―東日本大震災時の例―
日々の外国為替市場の主役は「投機筋」ですから、「投機筋が何に注目し、どのように考えるか」というのは、外国為替市場の方向感を見ていく上で非常に重要です。ただ、投機筋も「人」ですから、時には思い込みによって、やり過ぎたり、反応しな過ぎてあとでキャッチアップを余儀なくされたり、ということはよくあります。
この投機筋の「思い込み」による動きで特徴的だったのは、2011年3月に発生した東日本大震災直後のドル円の値動きです。
この震災発生直後は、「日本での大地震」ということを受けて、小幅ですが円安が進む場面もありました。しかしその後、津波や原発事故も絡んだ未曽有の大災害であることが伝わる中で、リスク回避目的の円買い戻しがジリジリと進行。そして数日遅れて3月17日早朝、円は急騰。ドル円は76円25銭と、震災発生直後の水準から7円以上円高が進んだことになります。
このときの市場では、この未曽有の大災害のために、「日本の生命保険会社や損害保険会社が保険金の巨額の支払いを行うために、保有している対外資産を売却し、円転する」との観測が広がりました。つまり、「これから強い円高が発生すると考えられるので、その前に円を買っておこう」という投機筋の動きが、円を急速に押し上げたのです。
しかし、この時点の日本はまだ貿易黒字で、円の急騰は、経済に大ダメージを受けた日本にとっては弱り目に祟り目状態になります。その後、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の電話会議が緊急招集され、日本の政府・日銀と、米国・ユーロ圏・英国・カナダの中央銀行による協調円売り介入の実施が決定。これにより、過度な円高は修正されることとなりました。
この動きのもとになった生保・損保の円転は、現実に発生したわけではありません。実際、この月の生保・損保の対外証券投資はネットでプラス、つまり対外資産を買い越している状態でした。為替ヘッジをかけている部分も大きいと思われますが、スタンスとしては「円売り」だったと言えます。
このように、投機筋の動きはしばしば、推測ベースで値動きが加速することがあります。そしてそれは、「真実かどうか」はあまり関係なかったりするのが厄介です。


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