電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

資金決済法の概要

資金決済法の改正案を解説する前に、一般にはなじみがない現在の資金決済法の概略を解説したい。資金決済法は、概ね以下のような資金の決済手段を規制している。
 

(1) 前払式支払手段
(2) 資金移動業
(3)電子決済手段等
(4)暗号資産

 

これらを業種別に大まかに整理したのが、下記[図表2]である。

 

[図表2]資金決済法が規定する資金決済手段
[図表2]資金決済法が規定する資金決済手段

 

(1)前払式支払手段

前払式支払手段とは、利用者が前払式支払手段の発行者に金銭を支払ったうえで、証票等を発行してもらい、その証票等を店舗等に提示・交付することで代価の支払を行うものである(資金決済法3条1項)。これまでプリペイドカードと呼ばれてきたものであるが、紙や磁気媒体だけでなく、スマートフォンにチャージするタイプも普及している。また、たとえば特定のスーパーが発行し、そのスーパー系列店のみでしか使えない自家発行型と、提携店舗であればどこでも使える第三者発行型がある。後者にはQRコード®※6決済、あるいはSuicaやPASMOといったものがある。

 

自家発行型前払式支払手段は小規模なものも多く、預かり残高が一定額を超えた際に、事後届出が要求される(資金決済法5条1項)だけである。他方、第三者型前払式支払手段の発行者は事前の登録が必要である(資金決済法7条)。前払式支払手段の発行者は利用者保護のため、未使用残高が政令で定める基準額(千万円)を超える場合は、未使用残高の二分の一以上の発行補償金を供託等しなければならない(資金決済法14条)。

 

なお、前払式支払手段にチャージされた残高は店舗での利用に限定され、その払戻には厳密な規定があった。しかし近年、前払式支払手段の残高を他者に譲渡することができ、当該他者が支払いに使用することができるものが出てきた※7。このような前払式支払手段は「高額電子移転型前払式支払手段」(資金決済法3条8項)と定義され、その発行者は業務実施計画の届出を行う(資金決済法11条の2)などの義務が課されている。

 

(2)資金移動業

「資金移動業」とは銀行等以外の者が為替取引を業として営むことを言う(資金決済法2条2項)。「資金移動業者」は内閣総理大臣による登録を受ける必要がある(同条3項、37条)。具体例としてはPayPalやPayPayなどがあり、物品購入の支払だけでなく、個人間での資金のやり取りもできる支払手段である。

 

資金移動業者には、移動金額の制限によって、第一種(資金移動額に上限がない)、第二種(100万円以下の資金移動のみ可能)、第三種(5万円以下の資金移動のみ可能)があり、また特定資金移動業(金銭信託の受益権のうち、電子情報処理組織を用いて移転できる財産的価値であって、受託者が受益権相当額を預貯金で管理するもの)がある(資金決済法36条の2)。なお、第一種資金移動業者と100万円を越える資金移動を行う特定資金移動業者はその実施計画について内閣総理大臣による認可を受けなければならない(資金決済法40条の2、37条の2)。

 

資金移動業者には顧客保護の観点から財産の保全規定があり、移動途上にある資金(未達債務という)を要履行保証額とし、それ以上の額の履行保証金を供託等しなければならない(資金決済法43条)などの規制がある。また、第一種資金移動業者には滞留規制がある(資金決済法51条の2)。具体的には、移動する資金の額、資金を移動する日、資金の移動先を定め(同条1項)、資金移動事務に必要な期間を超えて為替取引に関する債務を負担しない(同条2項)こととされている。

 

※6 QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標。
※7 2022年の「金融審議会資金結佐―ワーキンググループ報告」のp38では、国際ブランドのクレジットカードと同じ決裁基盤で利用することができるプリペイドカードが挙げられている。