電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

特定信託受益権の裏付け資産の管理・運用の柔軟化

本改正を図示すると[図表4]の通りである。

 

[図表4]特定信託受益権の裏付け資産の管理・運用の柔軟化
[図表4]特定信託受益権の裏付け資産の管理・運用の柔軟化

 

(1) 改正の経緯・内容

上記2の2で述べた通り、電子決済手段のひとつである特定信託受益権(現行法2条5項3号)については、受益権の金額に相当する全額を預貯金で管理することとなっている(同条9項)。これは特定信託受益権型のステーブルコインの価値を通貨と連動させるため、および預貯金で償還原資となる資産の全額を確保するためのものである。2025報告(p16~p18)では、米国やEUなど海外の規制を踏まえ、預貯金以外の資産であっても、電子決済手段の価格安定性・償還確実性を確保できる範囲であれば保全資産として認めることとした。

 

そこで改正法2条9項は、信託契約として受け入れた金額につき、(1)内閣府令で定める金額以上を預貯金として管理すること、(2)預貯金で管理する金銭以外の額を国債等内閣府令で定める債権を保有して運用することとされた(改正法2条9項)。2025年報告(p16~p17)では国債等で運用する金額の上限を50%(言い換えると預貯金を50%以上保有)とすること、また金銭以外の債権については、円建ての特定信託受益権については残存期間3カ月以内の国債とすること、米ドル建ての特定信託受益権については、残存期間3ヵ月以内の米国債とすることとされている。また、内閣府令で定める債権として、中途解約が認められ、かつ解約手数料により裏付け資産が減少しない定期預金が定められる予定である※18

 

※18 前掲注5 p3参照。

 

(2)検討

電子決済手段であるステーブルコインの価格を通貨に連動させる方法はいくつかあり、アルゴリズムを活用して価格安定を図るものなどがある。そのうち、今回改正されるのは、上述の通り、信託の受益権の形態をとるもので、信託できる対象資産の種類を増やしたというのが今回の改正である。この点に関しては、国債であっても、金利の変動に伴ってその取引価額が変動するため、元本割れのおそれがあることは否定できない。しかし、償還まで3ヵ月以内の国債であれば、満期まで保有すれば全額返ってくるので、元本割れの懸念はごく小さい。かつ国債には金利がつくため、資産保有方法としては合理的なのではと思料する。

 

なお、筆者の調査の範囲内では、特定信託受益権の方式をとるステーブルコインであって、円に連動する電子決済手段については、実用段階に入っている例はないようである※19。そうだとすると、今回の改正は国内における特定信託受益権型のステーブルコインの発行を促すために、国債等の利息を発行体の収益とすることで、発行体にメリットを与えて、発行を促進する側面があるとも言える。

 

※19 三菱UFJ信託銀行が実証的に行っているものがある。https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/230911_2.pdf 参照。なお、近くサービスを開始する見込みとのことである。https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250402-OYT1T50077/ 参照。