電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

「通貨の三機能」から見るデジタルマネーの現在地

一般に通貨には、造幣局の発行する貨幣(硬貨)と日本銀行の発行する日本銀行券(紙幣)がある※26。これら通貨は(1)交換・流通手段、(2)価値尺度、(3)価値貯蔵手段という3つの機能を持つとされる※27

 

一般にデジタルマネーと呼ばれるもののうち、前払式支払手段と資金移動業は、お金を受入れデータ化して移動・支払いに利用するだけのものであり、お金の上記3機能は硬貨・紙幣が一時的にデータに形を変えただけと考えることができる。

 

他方、電子決済手段等は、データ購入にあたり通貨は必要であるものの、データは払い込んだ通貨とは切り離されたもの(電子決済手段・暗号資産)になる※28。そのうち電子決済手段は通貨の有する3つの機能をすべて有しているものの、その使用((1)の交換・流通手段に該当)にあたっては、支払側と受取側の双方が電子決済手段等取引業者にアカウントを有していることが必要であるという限界がある※29

 

QRコード®決済が普及し始めたときは、店側の決済手数料を無料にし、店舗内にシールを貼るだけでも決済可能な方式も導入することで普及促進が行われた。電子決済手段ではこのような導入のための促進手段が考えにくく、直ちに電子決済手段等が普及するとは思われない。とはいえ、IC電子マネーも最初1992年にデンマークで実証が開始され、今日の隆盛を迎えたことを考えると10年20年単位では普及することも十分想定できる。

 

最後に報告書に記載があるが、改正法案に規定がないのは以下の通りである。これらは、政省令の改正により行われる可能性があり、今後も注視していきたい。
 

(1) 第一種資金移動業の滞留規制の緩和
(2) 前払式支払手段の寄附への利用
(3)特定信託受益権のトラベルルールの適用

 

※26 経済学の観点から預金を含むこともある。
※27 全銀協 https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-g/5228/ 参照。
※28 この点、特定信託受益権型デジタルマネーは若干特殊ではある。
※29 他方、暗号資産は価格の増減があるので、すくなくとも価値尺度機能はないと考えられる。